2021.10.20
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インクルージョンという価値観が重要性を増しています。人事におけるインクルージョンとはどういうことなのか、何故インクルージョンの実現が求められるのか、取り組み事例を含めて実践のコツを紹介します。
インクルージョン(英:inclusion)という単語は「包含する」という意味を持っており、多くの業界でごく普通に使われています。
たとえば宝石業界でインクルージョンというと、宝石ができる過程で取り込まれた不純物や内部の傷を指します。
高級宝石の一種として太古の琥珀に閉じ込められたトンボやアリが有名ですが、多くの宝石には特有の傷がついているものです。
それだけにインクルージョンが無い宝石は希少なのですが、インクルージョンが付いている事があらゆる意味で悪いわけではありません。
宝石の来歴に思いをはせたり、形状によっては宝石に新たな価値を付け加えてくれます。
ひるがえって人財管理を業務とする人事におけるインクルージョンとは「異なる価値観を持つ従業員を受け入れ、組織に定着して活躍してもらう」ことを意味します。
人財管理のテーマとして、以前はダイバーシティという言葉が広く取り上げられていました。
ダイバーシティ(英:Diversity)とは多様性という意味です。
グローバル化という時代を背景にして、年齢、性別、人種が違う人材を受け入れ、さまざまな価値観を持った人間の多様性の強みを生かした経営をしようという文脈で使われていました。
ダイバーシティとインクルージョンは似ているようで異なる価値観です。
多種多様な価値観という点では同じですが、ダイバーシティには組織の一員であるとか、人材の包括という概念が薄いからです。
インクルージョンには、多様な人材を採用した後に組織に定着して活躍してもらうという意味あいが強くなります。
本当のダイバーシティを実現するためには、単に採用業務に目を向けるだけでなく、採用後に多種多様な人材が組織に定着してもらわなければなりません。
定着してもらわない事には多様性の強みを生かした経営が難しいからです。
とくに近年は転職市場の活性化と合わせ、経団連の会長やトヨタ自動車の会長までもが終身雇用の維持が困難と発言し組織へのロイヤリティは低下傾向にあります。
人材を採用する側の立場としても、本音の部分では特定の業務が遂行できるスキルを求めての事で「その人個人」でなくてはいけない必然性はありません。
求職者の側も自分の替えはいくらでもいると考えますし、条件が合わなければ他社へ移るだけです。
このような環境下では社員が組織に愛着やロイヤリティを持つことが困難となり、ひいては定着率の悪化へと繋がっています。
人材の流動化は人の機能の流動化です。人材は条件を比較してより必要とされるところに移動します。
この状況を打破するためにインクルージョンという価値観がクローズアップされているのです。
インクルージョンはダイバーシティの次のフェイズだと言えますし、真なるダイバーシティ実現のために必要な過程だとも言えます。
インクルージョンという価値観がクローズアップされる背景は人材の定着だけではありません。
大企業から中小企業まで、多くの会社が下記の問題を抱えています。
これら5つの課題を解決する方法として、インクルージョンが期待されているのです。
現代の日本では人口全体が減りつつあります。したがってこれまで通り日本人の健康な男性だけを雇っていては立ち行かなくなります。
実際、現在の若年齢層の人口は氷河期世代の人口の半数程度しかいません。
会社の需要が労働力の供給を上回っているため、多くの会社で人材不足が起こっているのです。
このような状況では人財の価値は高まります。
イノベーションは思いもよらなかったアイデアの組み合わせから生まれやすく、そのためには組織内にさまざまな知識やアイデアの種が必要です。
日本の企業は健康な日本人男性によって構成されている場合が多く、知識やアイデアが似通ってしまいがちです。
ダイバーシティのある会社からイノベーションが生まれるのです。
厚生労働省の『新規学卒者の離職状況』によると、平成27年度に入社して3年以内に離職した大学卒業者の割合は31.8%にも達します。
高い採用コストをかけたにも関わらず離職されてしまっては大損です。
採用のミスマッチが起きている場合はともかく、採用した人材には会社に帰属感や一体感を持ってもらう必要があります。
どうせ替えの効く労働力だと思われていると躊躇なく条件の良い会社へ転職されるでしょう。
日本政府が掲げている目標の1つに、すべての女性が輝く社会の実現があります。
これまでの会社員の代表例であった男性とこれから活躍が求められている女性は、同じ価値観や背景を持っているわけではありません。
女性がそれぞれの個性や能力を活かすために、インクルージョンが求められています。
多様な人材を採用することでイノベーションを生み出せます。
しかしいろいろな人材を採用できた企業が、多様な人材が力を活かす環境を提供しているとは限りません。
ダイバーシティの次の段階として、多様な人材が能力を最大限活かしている環境を準備して維持する必要があるのです。
インクルージョンの取り組み事例として、以下5社の例を紹介します。
インクルージョンに関して、ANAは以下4つの目的を持って取り組みを進めています。
例えば女性活躍の推進については、定期的に女性管理職向けのイベント、ANA-WINDSを開催しています。
ANA-WINDSでは女性管理職が自身のキャリアプランを考えたり、女性管理職同士がつながったりすることができます。
第一生命保険会社は、ワーク・ライフ・バランスの推進によって、従業員が思い通りに働ける環境を整えています。
具体的な取り組みとしては、介護や子育ての支援や在宅勤務制度の導入などがあります。
第一生命保険会社の取り組みについて、詳しくは「ダイバーシティ&インクルージョン:基本的な考え方|働きやすい職場作り|第一生命保険株式会社」をごらんください。
P&Gジャパンは25年間、ダイバーシティとインクルージョンを推進させています。
P&Gジャパンは以下3つのステップをふんで、ダイバーシティとインクルージョンを進めてきました。
まずは女性にターゲットを限定して、そこから範囲を広げていきました。
またP&Gジャパンはセミナーやワークショップで、自社のダイバーシティとインクルージョンに対する考えを社外に公開しているので参加してみるのも良いでしょう。
野村證券を含む野村ホールディングスは、ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組みの1つとして、倫理的なルールを定めています。
そのルールでは、採用や評価において、国籍、人種、性的嗜好などに基づく評価をしないことです。
また女性の活躍推進については、2020年までに女性マネジャーの人数を550名にアップさせることを目標に、ワークライフマネジメントとキャリア形成に関する研修などを実施しています。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ダイバーシティとインクルージョンを倫理の問題ではなく経営における課題とみなしています。
つまり会社の経営力と競争力をアップさせるために、ダイバーシティとインクルージョンを推し進めているのです。
具体的な取り組みとして、女性にライフイベントに応じた下記サポートの提供をしています。
どうやったらインクルージョンを実現できるのでしょうか?
上手くいくコツを紹介します。
インクルージョンといってもなじみのない横文字では具体的に何をするのか、従業員にとってわかりにくいです。
従業員のアクションを導けるよう、まずは会社が掲げるインクルージョンのあり方をはっきりさせなくてはなりません。
具体的には他社のインクルージョンに関する事例や方針を調べて、自社の理想的なインクルージョンを言語化するのがおすすめです。
インクルージョンをよく知らない従業員にとっては、「インクルージョン = これから新しく入る社員、つまり自分たち以外の人に対する取り組み」と思われることも少なくありません。
今いる従業員に他人事だと思われては、インクルージョンはうまく進みません。
インクルージョンを勧める事で会社全体が得られる利益を明確に示すことにより、今いる従業員のモチベーションをアップさせることができます。
例えば「生産性アップによって仕事が早く終わり、早く帰れるようになる」などと説明するのがよいでしょう。
残念ながら、方針や姿勢だけでは実際の状況は変わりません。
力を引き出したい従業員が何を求めているか、何が従業員の仕事をジャマしているのか把握し、これらの問題を解決できる制度を実行するのがおすすめです。
例えば、働きたいが子供と過ごす時間も大切にしたい従業員のためにテレワークを導入する、などがあります。
言い換えれば組織の心理的安全性を高めましょう。
心理的安全性を高める具体的な方法としては、前向きな姿勢で物事や相手を捉えることがあります。
例えば質問してきた部下に対して、わからないことを責めてはいけません。責めるのではなく、学ぶ姿勢を評価するのがおすすめです。
各従業員が相手を受け入れる雰囲気を作り出すことで、インクルージョンを実現できます。
実際の業務や、やり取りの中で従業員が発言することでインクルージョンが進みます。
例えばマネジメント層のみが参加していた会議に他の属性を持った人に参加してもらうとよいでしょう。
マネジメント層による会議の参加者は、日本人男性ばかりになってしまうことが少なくありませんから、違う属性の従業員も参加してもらうことで、従業員が「自分は会社に受け入れられている」と感じることができます。
従業員は会社に居場所を見出してこそ力を発揮します。自分が受け入れられていないと感じる職場では全力を発揮できません。
多様な従業員の働き方を受け入れるためには、人の働き方を頭ごなしに否定しないことが重要です。
例えば仮にある従業員が、長時間労働がいいことだと部下に押しつけているとします。
生産性をアップさせて働く時間を短くしたいと思っている従業員は、そんな上司がいる会社からは離れてしまいます。
その際は最初から他人の働き方を非難するのではなく、理由を聞くことから始めるのがおすすめです。
ダイバーシティとインクルージョンを実現させる方法をステップに分けて紹介します。
ダイバーシティとインクルージョンを実現させるための手順を紹介します。
ダイバーシティ&インクルージョンそのものやダイバーシティ&インクルージョンによって従業員が得ることができる利益を教えることで、従業員のダイバーシティ&インクルージョンに対するモチベーションがアップします。
セミナーや社内コミュニケーションツールを使って、ダイバーシティ&インクルージョンの考えを広めましょう。
具体的には以下のアクションを通じて、ダイバーシティを実現させるのがよいでしょう。
前述のインクルージョンを実践のコツで紹介したように、以下の施策を実行するのがおすすめです。
各従業員の力を影響させ、相乗効果を生み出すには社内コミュニケーションを促進させるのがよいでしょう。
例えば日報でそれぞれの業務や進捗を共有すれば、それぞれの得意なことや苦手なことがわかる、日報に書かれたことに関して互いにアドバイスしあう関係ができるといった効果が期待できます。
以上がこれからの企業が取り組むべき課題としての、ダイバーシティとインクルージョン実現の必要性とやり方です。
まずは考えを社員に広めて、インクルージョンの実現を目指しましょう!