2021.8.1
企業にとってどのように組織開発を実施していくかは、経営上の大きな課題でしょう。昨今組織開発において注目を集めているのが「ティール組織」です。人事担当者であれば一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、「聞いたことはあるが、意味を理解していない」「そもそも自社で実現できるか分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか?
今回はそんな方に向けて、ティール組織とはどういうものなのか、実際の事例も含めて詳しくご紹介していきます。
ティール組織とは、社長などの上層部がマネジメントしなくても、組織の目的達成のために成長しづけることができる組織のことを指します。メンバー自身が組織のルールや目指すべき方向にを把握し、独自に意思決定を行い自走していくというの特徴です。従来の組織体系は、ヒエラルキーが敷かれて上層部によって目標や行動が管理されるのが一般的でした。ティール組織はそのような従来の組織体制でまかり通っていた不要な慣習や文化から脱却し、各組織の工夫によって独自に作り上げていくものです。
次世代型の新しい組織体制であるティール組織は、いきなり実現できるものではありません。効果のあるティール組織を作っていくためには、5つの過程を経て組織を進化させていく必要があります。その5つの過程とはフレデリック・ラルー氏によって提唱されたもので、「Red(赤)→Amber(琥珀)→Orange(橙)→Green(緑)→Teal(青緑)」という色分けされた段階で意識を表現し、こちらの順番でより「世界を複雑に捉える」ことができるとしています。ティール組織は青緑の段階で意識の最終段階のことを指すのです。ここからはそれぞれの段階について詳しく解説していきます。
Red組織は特定の個人の力で支配的にマネジメントを実施するという特徴があり、構成員含めて短期的な目線で動いている組織です。組織の焦点としては目の前の状況をどう生き抜いていくかに当たっている状態であり、メンバーは特定の個人の力に従うことに依存していることから「オオカミの群れ」に例えられます。そのため再現性のない組織形態だと言えるでしょう。
Amber組織は「軍隊」と比喩されるもので、厳格なヒエラルキーが敷かれて管理される組織です。指示系統が明確なことが特徴であり、構成員それぞれが与えられた役割を全うするという目的のもとに多くの人を束ねることができます。Red組織に比べると、より長期的な目線を持っており、依存先が特定の個人ではなく「支配する側」という役割であることから安定して継続できると言えるでしょう。
Amber組織では足りていなかった環境に変化するための柔軟性を持ち合わせているのがOrange組織です。階層構造によるヒエラルキーが存在している点はAmber組織と共通していますが、成果を上げれば昇格できるという流動性がOrange組織の特徴としてあります。多くの一般的な組織はOrange組織に当てはまると言えるでしょう。個人の力を発揮しやすくはありますが、成果を上げるための競争が激化し「機械」のように構成員が絶えず働き続けるという負の側面も持ち合わせています。
Orange組織のような「機械」のように働き続けることから脱却し、構成員が主体性を持ってそれぞれの多様性が尊重されるような組織形態がGreen組織です。目標達成による成果だけではなく、構成員それぞれの個性や能力に焦点をあてて評価することで、組織自体の文化的多様性を生むという特徴があります。ただ、あくまでヒエラルキーは存在しており、マネジメント側に決定権があるという点はOrange組織と変わりません。
そして最終形態のTeal組織は、組織を「一つの生命体」として捉えます。組織はマネジメント層や株主が所有しているものではなく、一つの生命体としてそれぞれの構成員が関わり成長を遂げていくための組織形態です。これまでの組織形態とは、意思決定権が個人にあるという点が大きく異なっており、目的実現のために構成員が独自の仕組みを作ったり改善をしながら組織活動を実施していくという特徴があります。
従来の組織形態とは異なり、企業がティール組織を目指す上でどのようなポイントを抑えておけば良いのでしょうか?ティール組織を提唱したラルー氏は著書で、「進化する目的」「セルフマネジメント」「ホールネス」の3つをポイントとして挙げています。
ティール組織には決まった形式はなく、各組織によってあり方が異なるべきではありますが、これら3つのポイントは共通項として存在します。それぞれがどういったポイントか正確に把握して、自組織の成長に繋げましょう。
ティール組織が「ひとつの生命体」である以上、存在する目的がありそれらは変化を続けながら進化していくものでしょう。つまり、組織の方針やサービスは構成員の意向で常に進化し続けていくべきであり、そのため皆で将来向かうべき方向性を考え続ける必要があるということです。経営層や管理部門が独断で意思決定を行うのではなく、構成員が活動を通じて常に現状を把握しながら全員で話し合って方針を決めていくことが求められます。そうすることでティール組織が存在する目的を見失わずに成長を続けられるはずです。
ティール組織では全ての構成員が経営に関する意思決定権を有しているため、個々のメンバーが独自に仕組みを作ったり改善を実施したりしながら組織運営を行っていく必要があります。セルフマネジメントができるようになるためには、組織運営に関するあらゆる情報が透明化されていること、組織から助言を受けつつ最終決定権を個人が有していることが必要です。そうなることで、各メンバーが自身の行動や成果に自覚的になり振り返り・改善をし続けることができます。
ティール組織の最大の特徴といっても過言ではないのが「ホールネス」です。ホールネスとは、組織内で上下関係を作らず、構成員それぞれが「自分自身」を発揮しながら働くことを推し進めるための考え方です。それぞれの個々人のありのままの姿を受け入れることが必要になるため、ティール組織の構成員には他者の弱さや不安を受け入れるための感情トレーニングを実施する組織も多くあります。そのほかにも、メンバーそれぞれの特性を把握し、能力を最大限発揮できる環境や仕組みを用意することも重要でしょう。
これまでの日本企業ではまだまだ取り入れている数は多くなく、目新しい考え方であることから誤った解釈でティール組織を捉えてしまう場合もあります。正しい認識でティール組織を目指さなければ、うまく組織運営が出来なかったり、メリットを最大限享受できなかったりするでしょう。ここからはティール組織に対するよくある誤解をいくつか紹介していきます。自社をティール組織化させたいと考えている方は、正しい認識を持って導入できるように参考にしてみてください。
ティール組織は昨今出てきた組織形態であるため、これまでの組織形態で不完全だった部分が補完された最も進化した組織形態であることは確かです。ただし、全ての組織に適用することが有効かというとそうではありません。組織の目的や構成員の特性によっては、Amber組織やGreen組織の方が適している場合は少なくありません。ティール組織はどういったものなのか、自組織の現状、今後組織がどうありたいかを考慮した上で、慎重にティール組織化の意思決定をする必要があります。
ティール組織とは、何かシステムを導入して実現したり成立させるための具体的な方法論があったりするわけではありません。構成員それぞれが常に組織の存在目的を問い続け、改善を繰り返し、進化を続けることの結果としてティール組織になりうるのです。そのため、それぞれの組織によって保守的な組織経営から革新的な組織経営へ繋がるプロセスは異なります。前述したティール組織の3つの要素を抑えつつ、自組織に合った方法で組織変革を実施していくことが必要です。
ティール組織は全ての組織に適用することは出来ませんが、構成員の少ないスタートアップ企業や特定の業種にだけしか適用出来ないというものではありません。中には数万人規模の企業でもティール組織として運営しているものも数多く存在します。重要なのは組織と構成員の間に信頼関係が構築されており、目指す方向性が各メンバーに浸透していることです。その状態であれば、あらゆる組織がティール組織へと変わることができるでしょう。
これまで紹介してきたようなティール組織として成立するためのポイントを抑えて、実際に組織変革を実現できる企業は残念ながら多くありません。それだけハードルの高い変革にはなりますが、全面的に実現は難しくとも一部を参考にして取り入れることは可能なのではないでしょうか?少なくとも、現在の組織運営に課題を感じている方は、自組織の現状を把握した上で、ティール組織の考え方で取り入れられそうなポイントから徐々に参考にしてみることをおすすめします。