2021.5.28
「部下に指示をしたら混乱を招いてしまった」
こんな経験がある方は、知らないうちにダブルバインドをしてしまっている可能性があります。
ダブルバインドとは心理用語で、ビジネスシーンだけではなく日常生活でも使っている場合があり、活用できれば強力な効果を得ることができますが、その分受けた相手に悪影響を及ぼす可能性も高いものです。
今回はダブルバインドの意味から発生しうる悪影響、それに対する対処法まで詳しく紹介していきます。こちらの記事を参考に自身の言動を見直し、不適切なダブルバインドを使ってしまっていないか見直してみましょう。
ダブルバインドとは日本語で「二重拘束」という意味で、メッセージに2つ以上の矛盾した意味が含まれていることで、受けた相手に精神的な負担を与えてしまう状態のことを指します。この概念は、イギリスの精神科医であるグレゴリー・ベイトソンの発表によって定義されたものです。
例えば上司から「わからなかったらすぐ聞くように」と指示を受け、疑問点を聞きにいくと「自分で考えるように」と矛盾することを言われ混乱してしまうというパターンがビジネスシーンではよくみられます。この場合、受け手の社員には精神的な負担がかかってしまうでしょう。
ダブルバインドは日常生活の中のあらゆる人間関係で発生しうる状態です。知らないうちに身近な人に精神的な負担を与えている可能性もあるため、どんな時に起こりやすいのか把握しておきましょう。
ここでは「家庭内」と「会社内」の2つのダブルバインドの例をご紹介します。
家庭内でもダブルバインドが発生してしまう場合はあります。特に親子関係において、親が子供に向けたメッセージに矛盾が含まれ、子供が混乱してしまい負担になるというケースが多いです。
例えば、子供が何か悪いことをしてしまった場合に、「怒らないから話してみて」と説明を促したにも関わらず、子供が正直にやったことを話すと叱ってしまい、子供が混乱して何も言えなくなってしまうというのはよくある話でしょう。また、矛盾したメッセージは言葉にせずとも態度や言葉の端々に表れるもので、子供はそれを敏感に察知してダブルバインドを感じてしまいます。
会社内でのダブルバインドで多いのは、上司から部下に向けたメッセージの中に矛盾があり、部下が精神的な負担を強いられるというパターンです。特にまだ会社の勝手が分かっていない新入社員がダブルバインドを感じるケースが多くあります。
例えば、新入社員に対して「何かあったら質問するように」と説明したにも関わらず、困った時に上司に聞きにいくと「自分で考えよう」と返答してしまう場合があります。上司はたまたまその時に忙しくて対応できなかったとしても、新入社員は萎縮してしまって今後質問をしづらくなってしまい、会社のことを理解するのに時間がかかってしまうでしょう。ダブルバインドは会社の生産性にもマイナスになってしまうのです。
ここまで紹介した例からも分かるように、ダブルバインド状態になっている受け手は精神的に大きな負担がかかってしまい、さまざまな悪影響を及ぼすでしょう。
ここからはダブルバインドにて起こりうる悪影響を紹介していきます。具体的には「メンタルヘルスを損なう」「パフォーマンスが低下する」という2つの悪影響について、詳しく解説します。
ダブルバインドを受けた子供や部下は、混乱・困惑、緊張状態になってしまいます。このような精神的な負荷が大きい状態が続くと、感覚や思考が麻痺してしまい正常な判断ができなくなってしまうでしょう。それにより最悪の場合「全部自分が悪い」と常にネガティブな思考にな李、メンタルヘルスを損なってしまうのです。この状態がさらに悪化すると、統合失調症などのさまざまな精神疾患に繋がる可能性もあるので、些細な言動でも注意する必要があります。
ビジネスシーンで起こりうる大きな悪影響として、ダブルバインドによるパフォーマンスの低下が挙げられます。ダブルバインド状態が続くと、必要以上に上司や関係者の顔色を窺いながら仕事をしてしまうことが多いです。そのため受動的な仕事が多くなってしまい、自分の判断で物事を進められなくなって自信を失ってしまいます。そうなると、「成果を出すため」ではなく「怒られないため」に仕事をするようになり、仕事のパフォーマンスが著しく低下してしまうのです。
ダブルバインドの状態になってしまった側は、ストレスを抱えたり身体的にも不調をきたしてしまいます。特に真面目で「自分でなんとかしなきゃ」と思ってしまいがちな人は、負担が大きくなってしまうことが多いです。その状態が長く続かないように対処する必要があります。
例えば会社内でのダブルバインドの場合は、他のチームの先輩に相談したり、カウンセリングを利用するなどして自分だけで抱え込まないようにすることが重要です。それでもどうにもならない場合は、転職など環境を変えることも検討しましょう。
ここまではダブルバインドのネガティブな側面ばかりに焦点をあててきました。しかしダブルバインドにはネガティブな側面だけでなく、うまく活用することでポジティブに使っていくことも可能です。特にビジネスシーンでは、相手の判断を意図的にコントロールしてうまく仕事を進めることができるため、活用方法を確認しておきましょう。
顧客に対する営業においてダブルバインドはポジティブに活用することができます。例えば商品を販売する場合に、「商品Aはいかがでしょうか」と聞くのではなく、「商品Aと商品Bどちらがお好みでしょうか」と問いかけるという方法です。自然にYES、NOではない2つの選択肢を相手に与えることで、断られる可能性をグッと下げることができます。購入を強いるような問いかけは避けなければなりませんが、相手の考えを少しだけ誘導するためにダブルバインドを活用するのは有効な方法だと言えるでしょう。
顧客に対してだけでなく、社内の人間関係においてもダブルバインドは応用可能です。特に誰かに何かを依頼する際に活用すると相手に大きな負担を強いることなく、仕事を進めることができます。例えば忙しくて手が回らない時に、「資料作成代わりにお願いできる?」と頼むよりも、「資料作成とアンケートデータの整理をお願いしたいんだけど、どっちの方が今都合いい?」と頼んだ方が引き受けてもらいやすくなるでしょう。相手に「押し付けられた」という印象を与えないように、自然と選択肢を用意するのがポイントです。
ただしあまりやりすぎてしまうと、受けても依頼を断りづらくなって結局精神的な負担が大きくなってしまうため、適度に活用するようにしましょう。
ダブルバインドはネガティブな側面がありながらも活用の仕方によっては、強力な効果を得ることもできます。そのため使う場面や使い方に注意しながら活用していくのが重要です。受け手に精神的な負担を与えないような、適切かつ効果的なダブルバインドの使い方をするためにはどうすれば良いのでしょうか。
ここからはダブルバインド活用の注意点について、それぞれ詳しく紹介していきます。
ダブルバインドをポジティブに使う場合は、ある程度信頼関係が構築されている人に限定しましょう。信頼関係ができていないと相手に余計な負担を与えてしまったり、こちらの意図が正しく伝わらない可能性が高いです。顧客への営業で使う際も、新規顧客ではなく既存の関係構築ができる顧客に使わないと信頼を損ねてしまいます。お互いのことが分かってない内からダブルバインドを使うことは避けましょう。
ダブルバインドを使う際には、選択肢を絞って相手に提示するようにしましょう。さまざまな選択肢から意思決定してもらおうと、良かれと思って多くの選択肢を提示してしまうと、相手はどれを選んでいいか分からなくなり負担になってしまいます。相手にいい影響を与えられそうな良質な選択肢を予め絞った上で、メッセージを発信するようにしましょう。
ダブルバインドは使用頻度にも注意しましょう。ダブルバインドは使用すると相手とのコミュニケーションがスムーズに進むため、つい使用してしまいます。ただ毎回ダブルバインドを使って相手に選択肢を提示してしまうと、強引な印象を与えてしまいます。使うタイミングを見極めて、ここぞというタイミングで活用しましょう。
ダブルバインドはあくまで受け手に納得感を持ってもらうように使うのが大前提です。相手に「選ばされた」「強要された」と感じさせてしまっては、マイナスの効果になってしまいます。仕事が進めやすいように選択を誘導するために使いますが、相手が選びやすいかどうかにも注意を払いながらメッセージを発信するようにしましょう。
ダブルバインドは自分の意思に関わらず、無意識で使ってしまっていることが多いです。その場合は、知らない内に相手に精神的な負担を与えてしまっている可能性が高いでしょう。相手との信頼関係を崩したり、仕事の効率を著しく下げてしまうため、ネガティブなダブルバインドを使わないように自身の言動には注意しましょう。
今回紹介した内容を踏まえて、今後のコミュニケーションの参考にしてみてください。