2021.6.2
みなさんは「コンセプチュアルスキル」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?もしこれを読んでいらっしゃる方々の中で、マネージャー以上の役職の方がいれば、この言葉を聞いたことがあるかもしれません。こういった役職の方であれば、常にどのような施策を回せばより経営がうまくいくのかということを考えているかと思います。
端的に言ってしまうと、コンセプチュアルスキルとは「正解がない問題に直面した際に、問題の本質を見極めて、周囲が納得できる最適解を導き出すことのできる能力」のことを指します。
先ほど、マネジャー以上の役職と書きましたが、このコンセプチュアルスキルについて知ることは、比較的若手の社員に対してもメリットがあります。
本記事では、そのような点も踏まえながら、コンセプチュアルスキルの概要について解説していきたいと思います。
「コンセプチュアルスキル」とは、日本語では「概念化能力」とも呼ばれ、知識や情報などの複雑な事象を概念化し、抽象的な概念や物事の本質を見極めることで、個人や組織の可能性を最大限まで引き上げることがスキルのことです。
冒頭でも述べたように、コンセプチュアルスキルを身につけると、抽象的で曖昧な「答えのない」問題に直面したとしても、物事を理論的に考え、周囲を納得させるだけの最適解を導き出すことができます。
コンセプチュアルスキルは、より上位の役職になるほど求められるスキルとして、アメリカのハーバード大学の経営学者、ロバート・カッツ氏によって提唱されました。カッツは、会社経営に必要なスキルをビジネススキルとして、それは大きく分けて3つに分類されるということを提唱しました。
その3つのモデル、通称「カッツモデル」は、業務遂行能力に関する「テクニカルスキル」、対人関係の処理能力に関する「ヒューマンスキル」、そして概念化能力に関係する「コンセプチュアルスキル」に分類されます。今回ご紹介する「コンセプチュアルスキル」はその1つとなります。
「テクニカルスキル」と「ヒューマンスキル」に関しては、日頃の業務のどのような場面でその能力が発揮されるのかということが比較的イメージしやすいのですが、「コンセプチュアルスキル」に関しては、スキルそのものが抽象的なため、イメージするのが難しいかもしれません。
コンセプチュアルスキルが高い人材は「ひとつの経験からより多くのことを学ぶ」「合理的に業務を進め、効率的に働くことができる」という特徴があると言われています。
コンセプチュアルスキルに関しては、はっきり言って先天的な要素もかなり大きいと言えます。つまり、特別なトレーニングなどを行なっていなくても、このスキルをすでに持っている人は一定数存在するのです。ただ、短期的にこのスキルを上げることは難しいですが、たとえ現時点でそのスキルを持っていなかったとしても、後天的なトレーニングでスキルを身につけることは決して不可能ではありません。
ここでは、コンセプチュアルスキルを構成する10の要素をご紹介しますので、ぜひこれを参考に、「自分はどのスキルを持っていて、どれを持っていないのか」などの自己分析をしていただけたらと思います。
1つ目は「ロジカルシンキング」です。意味は「論理的思考」です。これは、物事を論理的に考えたり説明したりできる能力のことを指します。
ビジネスの場合、ほとんどの問題の原因は1つだけということはなく、複数の事象が複雑に絡み合い、それぞれがさらに複雑に影響し合っています。このような場合、ロジカルシンキングのスキルがあると、それら様々な問題を分解して整理し、一つ一つの課題の優先度をつけ解決することができます。
2つ目は「ラテラルシンキング」で、これは「水平思考」を意味します。これはどのような能力かというと、物事を固定概念にとらわれずに、自由な発想でとらえることができるスキルです。それまでの常識などを覆す新しい発想を生み出すことができます。
新たな発想を生み出すことができるということなので、このスキルは新規事業立ち上げなどの際に非常に役立ちます。例えば、今すでに人気のあるものがなぜ人気があるのかと考えることも非常に重要ですが、「これが人気があるということは、つまりこちらも人気が出るのでは?」などの思考を持つことができるのです。
「常に全体を疑う」という姿勢が、このスキルを活用するためには必要になってくるかもしれません。
3つ目は「クリティカルシンキング」で「批判的思考」です。物事を分析的にとらえて思考する能力のことで、前提を疑い、考えや意見の偏りを見つけて正しい結論を導き出すことができます。
サービスの向上などをする上では、現状に満足せずに、常にそこに改善点はないかと考えることが必要不可欠です。批判的思考ということでネガティブに聞こえてしまうかもしれませんが、決して否定的な意味を持つものではなく、プロジェクトなどを進める際には、リスクヘッジを行う上で重要な考え方なのです。
「多面的視野」とは、一つの課題に対して、多面的で複数のアプローチから考えることのできるスキルのことを指します。一つの課題に対して、一つのアプローチのみで進めてしまっては、それが失敗した時のリスクは非常に大きくなります。ですが、複数のアプローチから検討をすることができれば、その分新しい可能性や解決策を生むことができます。
5つ目は「受容性」です。ビジネスでミーティングなどの場では、全く真逆の意見が出てぶつかり合ってしまうことも頻繁に起こるでしょう。ですが、ミーティングの目的はディベートのように相手を論破して打ち負かすことではありません。それぞれの意見を比較して、より良い解決策を導き出すことが最も重要なのです。そのためには、受容性は必須のスキルと言えるでしょう。自分とは異なる価値観を受け入れる受容力があれば、ミーティングの質もより高まるはずです。
またグローバル社会と呼ばれるようになってから久しい近年では、自分とは異なる価値観を持つ人々と接する機会は増える一方であり、ますますこのスキルの重要性は高まっています。
仕事では常に何が起こるかはわかりません。想定通りに進むことももちろんありますが、そうはいかないことのほうがほとんどなのではないでしょうか。そんな時に求められるスキルが「柔軟性」です。
柔軟性を持っていれば、不測の事態が起きた時、マニュアルには書いていないような事態が起きた時に、臨機応変に立ち回ることができます。「こんなときどうしたらいいんだ」と日頃から考えておくことは大事ですが、実際に何かが起こった時は、深く考えすぎるのではなく、まずは動いてみようと行動に移せる人は、柔軟性が高い人だと言えるでしょう。
常に物事に興味を持ち続ける「知的好奇心」も、コンセプチュアルスキルを構成する一つの重要な要素です。好奇心は、行動を起こす際の大きなエネルギーとして非常に重要な役割を持ちます。好奇心を強く持つことは、そのまま行動力へとつながるのです。
様々な事柄に興味を持ち、常にアンテナを張っておけば、新しいアイディアなどが生まれやすくなります。
「探究心」とは、物事に対して深い関心を示し、特に興味を持ったものに関して、とことん研究して深掘りする能力のことです。ビジネスにおいても、表面的なサービスや商品の情報だけでなく、その背景の思想や長期的効果についても考えられることが重要です。
そのためには、その商品やサービスについてより深く知りたいという知的好奇心がとても大事になってきます。それはそのまま、新しい知識や技術を身につけたいという企業にとって有益な従業員の意欲につながるのです。
難しいと思われるものでも、最初から無理だと決めつけるのではなく、果敢に挑戦する「チャレンジ精神」も、コンセプチュアルスキルを構成する大切な要素の一つです。
そもそも挑戦する前から諦めてしまっては、もしかしたら実現可能かもしれない可能性もなくなってしまいます。誰もが諦めてしまいそうな困難な状況でも、失敗を恐れずに果敢に挑戦できるチャレンジ精神は、自分の成長にもつながりますし、その姿は会社の周りの社員にも影響を与えることでしょう。
チャレンジ精神がなく、ただ現状で行動を起こさないままでは衰退してしまう一方です。もちろん失敗のリスクは常に伴いますが、世界中で一流として成功している人は、間違いなくこのチャレンジ精神を持っていると言えるでしょう。
最後の要素は「俯瞰力」です。この俯瞰力は、物事の全体像を冷静に見るために必要不可欠な能力です。全体を見渡すことで、重要な判断も冷静に下すことができるのです。
俯瞰力という言葉と似ている言葉として「客観力」という言葉がありますが、客観とは自分ではない第三者からの視点で物事を見ることですが、俯瞰力は自分も第三者も含めて全体を見ることであり、プロジェクトリーダーに求められる能力です。
俯瞰力がなければ、視野が必然的に狭くなってしまい、判断ミスを起こしやすくなってしまいます。
ここまで、コンセプチュアルスキルの概要や構成について解説してきましたが、最後に、コンセプチュアルスキルを活用するための思考、すなわち「コンセプチュアル思考」を高めるコツをステップごとにご紹介したいと思います。最初に述べたように、コンセプチュアルスキルは、特に管理職に求められるスキルではありますが、20~30代の若手にとっても非常に有用なスキルなのです。現場での対応力のある若手社員を育て上げるためにも、教育の一環として、コンセプチュアルスキルを習得するためのステップを取り入れることをお勧めします。
物事の抽象化とは、様々な事象から「物事の本質」を見出し、どのようにすればうまくいくのかという解決策を導き出すことです。仕事をしていれば、物事がうまく進んだ場合と、うまくいかなかった場合それぞれを経験するでしょう。そうした経験の中で、なぜうまくいったのか、いかなかったのかの要素を分析することで、成功を導くための物事の本質を見出すことができるのです。
成功や失敗の本質や共通性を見出すことができるようになると、何が成功で失敗なのかを定義することができるようになります。成功と失敗を自分の言葉でしっかりと定義できるということは、物事の本質を認識しているということにつながります。
ここまでのステップをしっかり踏んでいれば、これまでに得た情報を基に、現実の仕事などで活用できる段階に入れます。例えば、「成功するための秘訣」であったり、「失敗しないために行うべきこと」などを掲げて、業務の中で具体的な行動を行ってみましょう。
コンセプチュアルスキルは、抽象化などによって物事を整理したり、本質を導き出す力です。本質を見出すことにより、問題の根本的解決策を導き出したり、周りの人によりわかりやすいかたちでそれらの課題点を伝えることができるようになります。
すでに述べたように、コンセプチュアルスキルは、先天的な要素もかなり含まれるスキルにはなりますが、思考力を高めるトレーニングを実践することで、誰でも高めることは可能です。