2021.6.30
仕事をする中で、人間はどんなに注意していてもミスを起こしてしまうものです。そのような人為的に起こる事故や不注意を「ヒューマンエラー」と呼びます。ヒューマンエラーの中でも、業務上で発生したものに関しては自己責任だけでは済まないため、注意が必要になるでしょう。大きなトラブルに発展しないためにも、ヒューマンエラーの種類や発生する要因、発生してしまった時の対策などを理解しておくことは非常に重要です。
今回の記事ではヒューマンエラーについて網羅的に詳しく紹介していきます。
ヒューマンエラーとは人為的に発生した事故や不注意などのこと、さらに言うと人の行為によって予期していない結果が生じることを指します。そのため、意図して行ったミスに関してはヒューマンエラーとは呼びません。その範囲は多岐に渡りますが、法律や規則、社内の規範や社会的な常識、自身が定めた目標に対して予期せぬ結果が生じた際によく使われます。ヒューマンエラーを起こす可能性はできるだけ排除しなければなりませんが、前述した通り、人間はミスをする生き物です。その前提のもと、できるだけヒューマンエラーを予測しつつ、生じてしまった際にどう対応するかが重要です。
業務上のヒューマンエラーはさまざまなシーンで起こり得るものです。社内での連携はもちろん、社外の関係者・クライアントに対してヒューマンエラーが発生する可能性もあり、その場合は大きな損失に繋がる可能性が高いでしょう。そうならないためにも、どんな原因でヒューマンエラーが起こるのか理解しておくことが必要です。
ここからはヒューマンエラーが起きる要因を4つに分けてご紹介していきます。
本人には自覚がなくとも「勝手にそう思っていた」という無意識の決めつけによって、先入観や固定概念に捉われてしまうことでヒューマンエラーが生じる場合があります。例えば、「クライアントへの納品の期日を明日までだと勘違いしていた」「○○については報告が必要ないと思っていた」というような、いわゆる勘違いによるミスだと言えます。無意識な勘違いが起きないようにするためには、事前の合意形成とそれを記録に残しておくこと、マニュアすや工程を明確にしておくことなど「仕組み」によって解決する必要があります。
予定の確認不足や作業工程の見落としによって、やるべきことができていないこともヒューマンエラーにあたります。例えば「ミーティング予定を忘れていてクライアントを待たせてしまった」「アポイントが重複してしまった」などスケジュールに関するものや、社内ルールの見落としなども含まれるでしょう。このような予期せぬ見落としをなくすためには、ルールを明確にして常に意識できるような環境作りが必要です。
業務に慣れていって自身のやりやすいような習慣作りをするのは重要なことですが、それが要因でヒューマンエラーが起こってしまうこともあるでしょう。例えば、「毎月のルーティンになっている業務なので、チェックをし忘れた」「いつも他の人がやっている業務なので、任されたことを忘れていた」など、自身の慣れだけでなくチーム内での習慣が裏目に出る場合もあります。この習慣によるヒューマンエラーは、伝達ミスややり忘れに留まらず、自己判断で業務を進めることによって大きな問題に発展した際に対処が遅れてしまうというリスクがあるため注意が必要です。
転勤や配置換えなどによる環境の変化や、業務過多による疲れが常態化してしまうと、注意力が低下してヒューマンエラーが起こる可能性が高まります。例えば「疲労による眠気で簡単な計算を間違えてしまった」「慣れない環境での業務で、いつもより雑に進めてしまった」など、いつもできていることができなくなってしまうのです。そのため、特に環境が変わったばかりの時や疲れを感じる時は、いつも以上に「自分はミスをするものだ」という意識で、対策を講じる必要があります。
ここまではさまざまなヒューマンエラーの要因を挙げてきましたが、業務上に起こるエラーはそれだけではありません。ヒューマンエラーが意図せず生じてしまうのに対して、意図的に起こしたことで生じるエラーも存在します。場合によってはヒューマンエラーとして片付けられてしまい、根本的な解決に至らないこともあるため、全く別のものだと認識して対応する必要があるのです。
ヒューマンエラーに関してより理解を深めるために、ここからは2つのヒューマンエラー以外の業務上のエラーを紹介していきます。
「早く終わらせて帰りたい」「楽に仕事を進めたい」という心情から、やるべき工程を飛ばしたり、必要な申請をせずに手抜きをして生じるエラーはヒューマンエラーに当たりません。例えば「早く帰りたいから必要な点検を行わなかった」「報告すると不要な手間がかかるから、小さなミスを報告しなかった」など、本人にとっては小さなことでも、後に大きなトラブルになる可能性が高いものが多いです。この場合は、「手を抜いてやろう」と明確に意図して行動を起こしているため、生じたトラブルに対しても厳しく対処する必要があります。
ヒューマンエラーも含めて、最も悪質なのが故意にトラブルを発生させるパターンでしょう。例えば「会社の情報を他社に流出させて利益を得た」「自分のミスをチームのメンバーのせいにした」など、直接大きなトラブルに繋がるものであり、犯罪になる可能性もあります。
前述した通り、ヒューマンエラーはさまざまな要因で発生しますが、発生するエラーの種類も多岐に渡ります。業務内容や業種によって発生し得るエラーは細かくは異なります。ここでは、3つのヒューマンエラーの例を紹介していきますので、そちらを参考に自身の職場ではどのようなエラーが起こりそうか考えてみてください。
何か作業している時に注意力が低下するとケガに繋がってしまいます。工事現場や工場での業務中では起こりやすいにはもちろん、オフィスで書類をハサミで切る際やカッターナイフを使用する事務作業でもケガをしてしまった事例はあります。作業中のミスは決して難しくない単純作業をしている際に起こることが多いです。特に刃物や重いものを扱い際は、慣れている作業だからといって油断したり、他のことをしながら片手間で作業しないようにしましょう。
本来の作業手順に従って実施すれば起きないトラブルでも、ちょっとした不注意や手順を無視してしまうことで起きてしまうのです。実際に、倉庫での荷積み作業で段ボールを手順の通りに積まなかったことからバランスを崩して倒壊してしまったという事例もあります。この事例では「楽をしたいから適当に積み重ねた」という意図的な手抜きで起きてしまった側面もありますが、「手順通り積まなくでも大丈夫だろう」という無意識の思い込みが大きなエラーだったと言えます。
個人で使っているパソコンへのセキュリティ意識が甘く、会社の情報が社外に漏洩してしまい会社としての損失に繋がってしまったという事例は最近増えてきています。要因はひとつではなく、「作業ミスで誤って情報を外部に漏らしてしまった」「管理不足でパソコンを紛失してしまった」「セキュリティソフトを最新のものにしていなかった」など、さまざまなパターンが考えられます。直接的な損失に繋がらなくとも、会社としての信用を失ってしまいます。
これまで解説してきたようなヒューマンエラーを起こさないためには、具体的にはどのような対策を講じれば良いのでしょうか。業種や職種、組織環境によって必要な対策は細かく変わってきますが、共通して実施できる対策はいくつかあります。
ここからは効果的なヒューマンエラーへの対策を3つ紹介していきます。
ヒューマンエラーに対する対策として最も有効と言えるのが、過去に起きたエラーのリスト化です。どんな些細なことでもノウハウとして蓄積しておき、その事例が多くなってくると、組織でどんなエラーが多く起きているか、対策は効果がありそうかなど、分析・改善のサイクルを回しやすくなります。ここで分析した結果や有効だった対策をもとに、業務のマニュアルを新しく作成し直すのも良いでしょう。マニュアルを作成する際は、誰が見ても分かりやすいように図を用いたり、確認のポイントを明確にしておくことが重要です。
報告漏れやタスクのやり忘れなど、業務における細かいヒューマンエラーに対してはチェック体制を見直して強化するのが有効です。点検のフローや誰が責任者となってどんなチェック方法をとるか、二重チェック体制にするかどうか、チェック項目は明確になっているかなど、今のチェック体制では網羅できていないことを洗い出して自組織に合った形に改善しましょう。
風通しの良い環境にしておくことで、情報共有が密にできたり、協力しながらエラーの再発防止に取り組んでいくことができます。ここでいう風通しの良さとは「立場に関係なく意見を言いやすい」「ミスを必要以上に責めず、どうやったら無くせるか考える」といったことを指します。このような環境であれば、ヒューマンエラーが及ぼす影響を最小限に抑えることができるでしょう。
再三言及しているように、ヒューマンエラーはどんなに対策をしても起こりうるものです。そのためヒューマンエラーが発生する可能性をできるだけ下げると同時に、ヒューマンエラーが生じた際に適切に対応できる組織かどうかが重要になります。
ここで紹介した内容を参考に、自組織で生じ得るヒューマンエラーを想定し、さまざまなパターンに対応できるように準備しておきましょう。