2021.7.2
環境の変化に対して、緊張したり戸惑ってしまう人は多いかと思います。大きな変化に対してはそうなってしまっても、人間には些細なことに翻弄されないように、心の平穏を保てるような働きが備わっています。そのため日常生活においては、問題が起きてもそれなりに対応できるようになっているでしょう。
しかし、災害や未経験の危険に直面した際に、その働きが過剰に働いてしまって、対応が遅れてしまう「正常性バイアス」という状態に陥ることもあります。この正常性バイアスは災害時によく聞くキーワードですが、日常生活やビジネスシーンでも起こりうるものです。
今回は正常性バイアスに関して、その危険性や対策方法について解説していきます。
正常性バイアスとは、災害や医療の心理学でも用いられる用語です。人間が想定していない事態に遭遇した際に、「そんなことがあるはずない」「大丈夫だろう」という先入観が働き、その事態を大したことないものだと処理する心のメカニズムのことを指します。
このメカニズムは日常生活を平穏に送るために必要な機能で、これが無ければ何か起こるたびに過剰に反応してしまい、精神的に疲労が溜まったりストレスを抱えてしまうことになります。しかし、これが災害時などの緊急事態にも働いてしまうと、その場を立ち去るべきなのに対応が遅れて命の危険が及んだり、大事な局面で誤った判断をしてしまうのです。この正常性バイアスという働きについて理解し、正しく効果を発揮できるようにしておく必要があります。
正常性バイアスによって、大きな被害が及んでしまったという例は多く存在します。被害が大きくなる要因としては「まさかこんなことになるなんて」という正常性バイアスが招いた油断によるものなので、さまざまな事例から日頃潜んでいる危険に対して理解を深めておきましょう。
近年の大きな災害といえば東日本大震災が思い浮かぶことでしょう。東日本大震災においても「巨大な津波なんてくるわけがない」「自分のところは大丈夫」と、多くの方に正常性バイアスが働いて避難が遅れてしまったと報道でも伝えられています。もちろんそのような判断に至ったのは思い込みだけでなく「近くに水防施設がある」「10m超の津波の被害は予測不能だった」という様々な要因があるでしょう。ただ、正常性バイアスの働きを理解しておけば、「念の為避難しておく」というような判断ができたかもしれません。
直面したことのない危険に対して、人間は迅速に対応できないことがさまざまな災害事例からも明らかになります。
2020年から2021年6月現在においても世界中で猛威を奮っている新型コロナウイルスですが、その感染においても正常性バイアスが働いているといえます。このようなパンデミックの禍中でも、「自分は感染しないだろう」という正常性バイアスが働き、マスクなしで会話をしたり、大人数での会合を開催したりと、感染拡大が抑制されない一因となっているのです。ひとりひとりが正常性バイアスをコントロールして、「もしかすると自分が感染源になるかもしれない」という判断ができれば、日本においても感染拡大の収束に向かっていくことでしょう。
これまで述べてきたように、正常性バイアスは災害や医療の観点でよく使われる用語ですが、企業活動においてもその危険性が潜んでいます。特に経営者の方は正常性バイアスについてしっかり理解しておかないと、企業として大きな損失に繋がってしまう可能性があるでしょう。
ここからはビジネスシーンにおける正常性バイアスについて、詳しく解説していきます。
企業活動において「従業員が起こす不祥事」や「商品・サービスにおいての不備」などが要因となって、企業として大きな危機に陥る場合があります。この場合の多くが、正常性バイアスによって「自分の会社は大丈夫だろう」と、危機が直前に迫ってからでないと経営者も事態の大きさに気づくことができません。そのためその危機に対して十分な準備ができないまま、対応が遅れて大きな損失に繋がってしまうのです。
このような事態を防ぐためには、特に経営者は自身の正常性バイアスを客観的に把握し、「もしかするとこんなリスクがあるかもしれない」と常に考えておく必要があります。
日本企業の企業生存率は「10年後に7割」「20年後に5割」と言われています。そのため正常性バイアスによって「うちの会社は倒産しないだろう」と考えていても、ほとんどの会社が倒産してしまうということです。現代はグローバル化やIT化が急速に進んでいるため、企業の経営環境も日々急激に変化していきます。また、前述したような災害や未知のウイルスのリスクも常に潜んでいるため、少し先の未来のことも予測しきれないものです。それを踏まえた上で経営者は自社を客観的に評価して、さまざまなリスクに対して柔軟に対応できるようにしておかなければなりません。
正常性バイアスにはさまざまな危険性があります。災害や企業としてのリスクはもちろん、個人の言動にも大きな影響を与えるのものであるため、その危険性を正しく把握しておきましょう。
ここからは正常性バイアスの危険性を4つ紹介します。
正常性バイアスは「自分は大丈夫だろう」と思ってしまうものなので、例えルールが決められていても「守らなくでも大丈夫」と都合のいいように解釈してしまう場合があります。そのような思い込みが、思わぬミスや事故を引き起こすことになるのです。例えば、チェックが必要な項目を「いつも問題が起きないから飛ばしても大丈夫」と判断し、それが原因で他の人が怪我をしてしまうということもあるでしょう。
正常性バイアスが働くと、自分にとって都合の悪い情報を「そんなはずがない」「見なかったことにしても大丈夫」と過小評価してしまう可能性が高まります。それがほんの些細なことであったとしても、見逃したことが原因となって大きな危険性があります。例えば、クライアントからきていたクレームを上司に報告せず「大丈夫だろう」と自分だけで対応してしまい、クライアントの信頼を損ねてしまい取引を打ち切られてしまうということもあるでしょう。
正常性バイアスは自身の言動についても「問題に繋がるわけがない」と判断し、結果的に配慮に欠けたハラスメントに繋がってしまう危険性があります。人間の中には無意識にさまざまな偏見や偏った考え方が、多かれ少なかれ潜んでいるものです。それが表面化するとハラスメントとして捉えられる可能性が高まりますが、正常性バイアスが働くとその偏見が言動に現れてしまう傾向にあります。
仕事をしている中で正常性バイアスが働くと「仕事の進め方はこのままで大丈夫」「自分の会社は安泰だから大丈夫」と、改善やキャリアステップを考えなくなり、結果的に自身の成長を妨げることに繋がります。前述した通り、今後会社がずっと続くとは限らないため、自己成長を続けておかないと、いざ会社が倒産した時に困った状況になる可能性が高くなるでしょう。
このように正常性バイアスにはさまざまな危険性が潜んでいるため、自分の生活の中でできるだけ防いでおく必要があります。ここからは正常性バイアスを防ぐために実践できる対策方法について詳しく解説していきます。
正常性バイアスは、非常事態や未知のリスクに対して心を平穏に保つために必要な働きです。そのためそれを過剰に働かせないためには、日常生活で起こる事象に対して想定外のリスクや様々な可能性を想定しておくのが有効になります。そうすることで正常性バイアスが過剰に働いてしまう状況でも、冷静に事態を把握して適切で素早い対応が可能になるでしょう。
非常事態で最も危険なのは「何をしたらいいか分からない」という状況です。何をすれば明確になっていれば、もし「大丈夫だろう」と思っても、ひとまず決められたことは実施できるため最悪の事態を避けられる可能性が高まります。そのためにはあらゆる状況を想定した上で、それぞれの事態に対してルールや行動指針を定めておく必要があります。ルール化された行動指針があれば、事態に対して間違った行動してしまう可能性を下げることができるでしょう。
正常性バイアスは「自分は大丈夫」と思考停止してしまうことがリスクを生んでいるため、常日頃から思考を止めない訓練を積んでおくと良いでしょう。例えば、直接自分に関係のない事象に対しても「自分だったらこうする」と考えたり、目先の利益だけでなく「先を見通して考える」というような思考ができるようになると、いざ非常事態が起きた際も正常性バイアスを抑えて、必要な思考を巡らせことができます。
正常性バイアスは主に災害や医療などの場面で使われることが多い用語ですが、これまで見てきたようにビジネスシーンや日常生活でも無意識に働かせてしまっている場合が多いです。
正常性バイアスは誰しもが陥ってしまう可能性があるため、「自分には関係ない」と思わず、自身の言動や思考のプロセスを客観的に見直すことが重要です。
正常性バイアスをうまくコントロールすることで、不要なリスクやトラブルを回避できるようになるため、今回の記事を参考に今日から対策を実践してみてください。