2021.6.30
人は誰しも生きていく中で、失敗やどうしようもないことに直面しストレスを抱えてしまうものです。そのような誰もが経験するストレスとうまく向き合うための方法として、「セルフコンパッション」が昨今注目を集めています。特にビジネスシーンでは、さまざまな側面でストレスを感じる場面が多いため、セルフコンパッションを身につけることでストレスをうまくコントロールしながら仕事を進めていくことができるでしょう。
今回はセルフコンパッションについて、その効果や実践方法まで詳しく解説していきます。
セルフコンパッションとは、他人を思いやるのと同じように、自分自身のことを思いやることを指します。セルフコンパッションは自分の存在価値を認め、マイナスな感情を減らしてポジティブな考えや幸福感を生まれやすくするのです。例えば、何か失敗をしてしまった場合に「なんで自分はこんなことができないんだ…」と責めたり、ネガティブになるのではなく、自分を思いやって「次同じ失敗をしなければ大丈夫」と安心させるという考え方がセルフコンパッションだと言えます。自分自身をありのまま受け止め、心を健やかに過ごすことが目的です。
セルフコンパッションの考え方が生まれたのは2000年代初頭でしたが、なぜ今になって日本で注目を集めているのでしょうか。日本は他の国に比べて自分と他者を比べて、自分を下げてしまう国民性があるため、心の病気やさまざまなストレスを抱えてしまう人が多いのは確かです。そのため、セルフコンパッションによる自身の心のコントロールに注目が集まっています。
日本人が抱えてしまいがちなストレスについて、もう少し詳しくみていきましょう。
仕事がうまくいかずにストレスを抱えてしまい、忙しくて解消できないため、さらにストレスを溜め込む…という負の連鎖で悩んでいる方も多いかと思います。特に日本人の性質上、職場環境や人間関係でのストレスを抱える人が多く、それがうつ病などの心の病気に繋がって仕事ができなくなってしまうこともあります。
仕事をしていると「自分はこの仕事に向いているのか」「この先この仕事を続けるべきなのか」と、先々を見据えた悩みがストレスに変わってしまうこともあるでしょう。特に現代はIT化やグローバル化が急激に進んでいるため、どんどん社会が変化していきます。そのため、自分がやっていることに自信が持てなかったり、情報がたくさん入ってきてどうしていいのか分からなくなる焦りが将来的な不安に繋がりやすくなっているのです。
ではセルフコンパッションの具体的な説明に入っていきましょう。セルフコンパッションには「自分への優しさ」「他者と共通の人間性」「マインドフルネス」という3つの構成要素があります。『ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された論文にて提唱されていたもので、これらを満たした状態でセルフコンパッションは構成されます。
それぞれについて詳しく解説していきます。
セルフコンパッションにおいては、自分自身に辛いことがあったり、負荷がかかったときに、ネガティブにとらえるのでは無く自分を肯定します。他者に対して思いやりを持った言動をするように自分に優しく、ありのままの自分を受け入れるよう振る舞うのです。他者と同じように自分自身を思いやる優しさを持ち合わせていることが、セルフコンパッションでは必要になります。
セルフコンパッションでは、困難が立ち塞がった際に「自分だけがどうして…」と悲観的になるのではなく、他者と共通の人間性を見出してあげます。悲観的に捉えてしまうと、世界から断絶されたような疎外感や孤独感に苦しみ、なかなか立ち直ることができません。「苦しいのは自分だけではない」「生きている中で他の人も同様の経験をしているはずだ」と思うことで、自分ひとりで苦しむ必要がなくなり、苦しみが緩和されるでしょう。
マインドフルネスとは、苦しみや困難などから生まれるマイナスな感情などを無視したり誇張したりせず、ありのまま受け入れることであり、セルフコンパッションと密接に関係する概念です。重要なのは「ありのまま」受け入れることであり、そうすることで辛い出来事やマイナスな感情も「ただそこにある事実」としてとらえることができるため、ストレスとして負担になりづらくなります。
セルフコンパッションの研究は進んでおり、さまざまな効果があることが証明されてきています。中でも主な効用として挙げられるのが「幸福感を高める」「ストレスを減少させる」「心が健康的になる」の3つです。セルフコンパッションを取り入れることで、これらの効果を得ることができ心を病まずに過ごすことができるでしょう。
ここからはそれぞれの効果について詳しく解説していきます。
セルフコンパッションを取り入れることで、幸福感が高まり、マイナスな出来事が起きたとしても冷静かつ適切に対応できるようになります。例えば、何かの試験において不合格になってしまった場合、セルフコンパッションを身につけていると悲観的な感情が少なく、「次合格するにはどうすれば良いか」と心を前向きな状態に保つことができるのです。また、感謝の気持ちを多く持つことができるため、他者に対しても前向きな影響を与えることができるため、チームで仕事をする際にも価値が高い人材になれるでしょう。
セルフコンパッションを身につけると日常でも仕事上でもストレスを感じづらくなるため、悲しみや怒り、嫉妬のようなマイナスな感情を抑えられるようになります。そのため人間関係も良好になり、さらにストレスを感じづらい環境が自然と出来上がっていくのです。ストレスが減少すると心に余裕が生まれるため、自信が身についたり、他者から好感を持たれやすい人物になることもできます。
セルフコンパッションが身に付いていないと、ストレスや不安を抱え込みやすくなり、マイナスの感情から抜け出しづらくなります。そのため精神衛生が悪い状態が続いてしまい、さらにストレスを抱えてしまうことになります。一方でセルフコンパッションが身に付いていると、自分が置かれた状況を肯定的に捉えることができ、プラスの感情が多くなります。そうなると心が健康的で余裕のある状態になり、心の病にかかりづらくなるでしょう。
ここまで解説してきたように、セルフコンパッションにはさまざまなプラスの効果がありますが、実際にどのようにして身につければ良いのでしょうか。実践の方法に関してもさまざまな種類がありますが、ここでは3つの方法についてそれぞれ解説していきます。自分に合ったセルフコンパッションの実践方法を試してみてください。
ジャーナリングとは、一定の時間内で頭に思いつくことをあるがままに書き続ける手法のことです。書く内容としては、自分が感じていることやストレスとして抱えていること、悩みなどが該当します。重要なのは、それらをありのまま文章の体裁を気にせずに表現することです。そうすることで、無意識で感じていることや気づかなかった課題に気づいてあげることができ、客観的に自分の現状を把握することができるのです。ジャーナリングは心の整理整頓をするための有効な手段として提唱されており、「書く瞑想」とも呼ばれています。
普段口に出せないような「悲しい」「つらい」という感情も、書くという行為で吐き出すことができるでしょう。
精神的に辛い状態が続いていると、ついマイナスの感情が先行してしまうものです。そのような状態だと、せっかくセルフコンパッションを身につけても、それ自体を忘れてしまう場合もあります。そのため「リマインド・ペーパー」を使って、いつでもセルフコンパッションの考え方を思い出せるようにしておくのも重要です。自分がマイナスの感情になったときに「取るべき行動」や「プラスの感情になる言葉」を紙に書いて貼っておいたり、スマホのメモに残しておいていつでも確認できるようにしておきます。こうすることで、マイナスの感情に対して「何をすれば良いかわからない」ということがなくなり、冷静な行動を実践的るようになるでしょう。
セルフコンパッションの構成要素としてのマインドフルネスな状態は、「瞑想」をすることで作り出すことができます。この際行う瞑想では、自分に優しくなれるように慈しむだけでなく、他者に対する慈しみが持てるような文言を心の中で唱えることが重要です。例えば、家族や友人など具体的な人の名前を思い浮かべるのも効果的でしょう。そうすることで、セルフコンパッションの質を高めることができます。
また、瞑想はマインドフルネスな状態を作り出すだけでなく、ストレス解消や心の病の予防にも繋がるため、実践することで科学的な効果を実感することもできるはずです。瞑想によってプラスのマインドを身につけましょう。
セルフコンパッションは、実践の仕方や効果などについて知識を深めることも大切ですが、何よりも行動に移してみることが重要です。紹介したような「ジャーナリング」や「瞑想」は今からでも実践できる手法なので、何か悩みやストレスを抱えている方はまず見様見真似で始めてみてください。その中で自分にとって良い効果が現れたり、自分に合った方法が見つかったりするはずです。セルフコンパッションを積み重ねていくことで、より上手く自分のストレスやマイナスな感情をコントロールできるようになります。