2021.7.30
他者と良好な人間関係を築くための手法として「ラポール形成」という用語を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?元々は心理学から生まれた手法ですが、近年ではビジネスシーンでも注目を集めています。ただ、言葉は知っているけれでも意味を正しく把握していない場合や、誤った解釈で使いこなせていないという人も少なくありません。ラポール形成はを上手く活用することで、さまざまな人間関係を良好に築くことができるため、間違った使い方をしてはもったいないです。
今回は、ラポール形成について本来の意味やメリット、実際に活用するためのテクニックなどさまざまな観点から紹介していきます。
初めてラポール形成を知った方も、誤って使っていた方も、こちらの記事を参考に正しく意味を理解して自身の人間関係構築に役立てましょう。
そもそもラポールとはどういった意味なのでしょうか。
ラポールとはフランス語で「架け橋」を意味する言葉で、カウンセリングやセラピーの世界で良く使われます。ひとことで表すと信頼関係のことを指し、人間関係を構築する相手と心を通わせるための架け橋を作ることをラポール形成と呼びます。近年では心理療法の世界だけでなく、ビジネスの中でも特にセールス部門やプレゼン、またはプライベートの恋愛や家庭内でのコミュニケーションの中など、人間関係が発生するあらゆる場面でラポール形成が用いられるようになってきました。
ラポール形成をすることで、心理的に安心した状態でコミュニケーションを取ることができるため、相手が言っていることを素直に受け止めることができたり、自分も取り繕わずに本音で話をすることができるというメリットがあります。よりラポール形成が深くなっていくと、その分お互いの思いや感情が伝わりやすくなるため、強固な信頼関係を築くことができたり、ビジネスでもプライベートでもより良好なパートナーになることができるでしょう。
ただなんとなく相手との親睦を深めようとしているだけでは、ラポール形成をうまく行うことは難しいでしょう。効果的にラポール形成を行うためには「尊重」「類似性」「ペーシング」という3つの要素を抑えてコミュニケーションを取る必要があります。
ここからはそれぞれについて、詳しく紹介していきます。
ラポール形成における「尊重」とは、良好な関係を築くために相手の世界観を尊重することです。人にはこれまで培ってきた経験や、心に秘めた感情、個人的な信念など、他人が干渉できない世界観があるものです。真に良好な人間関係を築く際に、この世界観を尊重せずに「相手の考えを支配したい」という姿勢で望んでしまうと、ラポールは形成できません。そうならないためにも、相手が伝えたいことや大事にしていることに誠実に耳を傾けて傾聴することが重要です。また、傾聴する際に、相手の話に合わせて共感を示すようなアクションをすることで、安心感を与えながら自身の本音を話してくれるようになるでしょう。
ラポール形成において、人間関係を構築する2人の姿勢が似ていたり、振る舞いが一致していることは非常に重要です。行動が一致していると、相手に安心感を抱いてもらうことができ、警戒心を徐々に解いていくことができます。例えば、初めて会った人と年齢や出身地、職業が同じ場合に一気に心理的な距離が縮まるということがあると思いますが、このようなトピックにおける類似性も同様のことが言えるでしょう。また、類似性によって会話が弾んでラポール形成が深くいくになるにつれて、さらに同調性が高まってくると言われています。
ペーシングとは、話し方やペース、呼吸のテンポや視線などを、話す相手に合わせることを指します。前述した類似性に通ずるものですが、相手の仕草に自分の動作を合わせることで、相手の無意識な心理面に安心感を与えるなど大きな影響があります。非言語の動作や表情だけでなく、言語的な相手が発した言葉を繰り返したりすることも有効だと言えるでしょう。
ラポール形成の基本的な姿勢である3つの要素をみてきましたが、実際にラポール形成を行うためには具体的にどのようにすれば良いのでしょうか?実際のコミュニケーションの場面ではさまざまなテクニックを、状況に応じて複合的に活用していくことが重要です。
ここからは具体的なラポール形成のテクニックとして「ミラーリング」「マッチング」「キャリブレーション」「バックトラッキング」という4つの手法について、それぞれ詳しく紹介していきます。
ミラーリングとは、相手がした行動をまるで鏡のように自分も同じような動きをするテクニックのことで、ペーシングの基礎となっています。自分が好意的な相手といると、無意識に仕草や振る舞いを真似してしまう心理を利用し、行為を持ってもらうよう意識的に相手の動きを真似します。ただし、あまりにも不自然に行っていると、相手に気づかれてしまったり、最悪の場合不快感を与えてしまうため、あくまでコミュニケーションの延長線上で違和感なく動きを真似するようにしましょう。例えば、相手が飲み物を飲んだら自分も飲む、足を組み替えたら自分も足を組み替える、など、些細な仕草でも自然と真似をすることでラポール形成が行われて心の距離を縮めることができます。
ペーシングの中でも、聴覚に働きかける手法をマッチングと呼びます。相手の話し方に合わせて、自分の話す声のトーンやテンポ、大きさを調整してコミュニケーションをする手法です。例えば、相手が冷静に話しているときはこちらも声のトーンを落としたり、相手が勢いよく話してくタイプであればこちらもテンポよく会話します。どのように合わせるにしても、基本的には相手の話にしっかりを耳を傾けて、相手本位で自分の言葉を届けるようにするのが重要です。マッチングの場合、視覚情報が必要ないため、コールセンターや電話営業など電話越しでのコミュニケーションでも活用できるのが特徴です。
キャリブレーションとは相手の詳しい情報を手に入れるための手法で、相手の表情や仕草など非言語情報から多角的に相手のことを観察することで心理状態などを推察します。キャリブレーションを行って事前に相手の情報を把握しておくことで、ミラーリングやマッチングをより効果的に活用することができるのです。特にビジネスの世界でのコミュニケーションでは、本音と建前を使っているため、キャリブレーションによって建前を見極めながら会話を進めることで、相手に信頼感を得てもらうことができるでしょう。こちらのことを頼れる存在として認識してもらえれば、深いラポールを形成することができます。
バックトラッキングとは、相手の発した言葉を使って返事をすることで、いわゆるオウム返しの手法です。コミュニケーションを取る際に自分が言ったことを理解してもらえると、相手は安心感を得られます。例えば、「〜〜ということがあってとても嬉しいんです」という話に対して「そうなんですね」と単に相槌を打つだけでなく、「〜〜ということがあて、〇〇さんは嬉しいんですね」と、相手が使った言葉で返事をするのがポイントです。あえて言葉を付け加えないことで、相手に寄り添っていることが伝わり、話に共感を示していることをアピールできます。これを続けることで、相手も気持ちよく自分の話ができるため、上手くラポールを形成することがで切るのです。
さまざまなラポール形成のテクニックを知ったところで、最後に効果的なラポール形成を行うために抑えておきたいポイントを確認しましょう。前述したテクニックと合わせてポイントを意識することで、さらに上手くラポール形成を行うことができます。
ここからはラポール形成をする上で抑えておきたい2つのポイントについて、それぞれ紹介していきます。
ラポール形成をする上で必要な要素である世界観の尊重をするためには、まず相手が大切にしている価値観を知る必要があります。価値観は過去の家庭環境や人間関係、仕事、経済状況などを基に形成されるため、それらを知ることでより深いラポール形成を行うことができるでしょう。価値観を知れるような質問を投げかけ、少しずつ相手の価値観を理解していき、それに合わせたコミュニケーションを取ることで、相手に親近感を与えることができます。
人によって情報処理をするタイプが異なっており、大きく「視覚タイプ」「聴覚タイプ」「身体感覚タイプ」という3つに分けることができます。「視覚タイプ」は目で見たことを重視して言葉を発し、「聴覚タイプ」は耳で聞いたことを意識的に言葉にし、「身体感覚タイプ」はゆっくりとしたスピードで感覚に合わせた言葉を使うとされています。それぞれのタイプによって、心地よいと思うコミュニケーションの仕方が異なるため、相手のタイプに合わせてアプローチすることで効果的なラポール形成をすることが可能です。「視覚タイプ」には図を使ったり、「聴覚タイプ」には論理的に説明したり、「身体感覚タイプ」にはこちらもゆっくり丁寧に話を進めるなど、工夫をしてみると良いでしょう。
ラポール形成はさまざまなコミュニケーションの場面で使える手法ですが、効果的に活用するには、まずは実践してみてトレーニングを積む必要があります。自分が置かれている立場や人間関係に応じて日頃から意識的にコミュニケーションの取り方を変えてみるよ良いでしょう。こちらの記事で紹介したテクニックやポイントを抑えて、是非自分なりのラポール形成を実践してみてください。