2023.5.17
現在、私たちが直面している最大の変化の一つは、新型コロナウイルスの影響によるリモートワークの普及です。この状況は、私たちの働き方やビジネス環境に大きな影響を与えました。
リモートワークは、多くのチームや企業にとって新たな挑戦となりましたが、その一方で、柔軟性や効率性の向上など、数々の利点ももたらしました。
働き方も含めて、今後世界がどのようになっていくかも益々わからない状況で、ビジネスで成功を収めていくためには、柔軟に変化に対応ができる組織作りをしていくことが非常に大切です。
今回は、そのような変化に強い組織作りをするための人事制度、マネジメント手法のひとつとして注目されている「OKR」の実際の導入事例をいくつか紹介していきたいと思います。
これまでの記事でも、OKRに着目し、その特徴や評価・設定方法について解説をしてきました。しかし、「OKRや設定方法は理解しても、実際にOKRを導入している企業がどのような目標を設定しているのかを知りたい」と考えるかも多くいらっしゃると思います。
もちろんしっかりとセオリーを理解し実行することも大切ですが、ただセオリー通りにやっているだけではなかなか思い通りにはいかないものです。ぜひ本記事でご紹介する事例を参考に、自社でのOKR運用に役立てていただければ幸いです。
OKRは「Objectives and Results」の略称で、「目標とその成果指標」という意味があります。
元々の起源は、当時のIntel社のCEOであるアンディ・グローブ氏が、組織に効果的な目標設定と共有の仕組みとして導入したことが始まりでした。その後、GoogleやFacebookなどのシリコンバレーの有名企業に浸透していき、日本でもメルカリなどの企業が導入し始めたことにより、注目を集めている目標管理のフレームワークです。
OKRでは、まず組織の目標(Objective)を設定し、その目標を達成するために必要な成果指標を3~5つ程度設定します。企業などの組織全体から、部署やチーム、そして最終的には個人の目標へと落とし込んでいく目標管理手法です。
組織のそれぞれの成果指標に対して、部署やチームがしっかりとコミットメントし、その成果指標を達成するための目標達成を行っていきます。部署やチームで設定された成果指標が、個人の目標となり、それに合わせて個人の成果指標も設定します。
OKRの一番の特徴は、個人やチームの成果が組織の成果に直結するという点で、それぞれの目標や成果指標を組織内で共有することで、組織全体のコミュニケーションも活性化されるのです。
ここまで、OKRのおさらいを簡単にしましたが、細かい内容に関しては、こちらの記事(「OKRとは?OKR専門家が基本から運用方法まで解説!」)で詳しく解説をしていますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
次に今回に記事のメイントピックである、OKRの導入事例を見ていきたいと思います。今回は3社の事例をご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
まずはGoogleです。Googleは、OKR導入のパイオニアとも言える企業です。GoogleがOKRを導入したのは、2000年代初期の頃です。最初は試験的に導入をされたOKRですが、その効果と有用性が注目され、Googleを代表するマネジメント手法の一つとなりました。GoogleにOKRが及ぼした影響は非常に大きく、1998年に設立されてからわずか数年のうちに世界的な大企業へと成長をしました。
世界各地に拠点を持ち、従業員13万人を抱えるGoogleは、どのように目標を設定し管理をしているでしょうか。ここでは、Googleが実践している3つの手法をご紹介します。
ストレッチゴールとは、自分自身が達成可能と考える設定値よりも高い目標を設定することです。達成が容易な目標ではなく、一定のリスクや努力を伴う目標が求められます。
具体的には、達成できるかどうかの自信度50%がOKRには適正と考えられています。
Googleでは、このストレッチゴールを少なくとも3つ設定することを推奨しています。50%の確率で達成できる目標こそが、チーム、個人のパフォーマンスを最大限に引き出すことができると考えているからです。
そして、目標をあえて高く設定することで、もし目標達成ができなかったとしても、従業員の成長を促すことができるというのも狙いの一つです。
Googleは、スコアリングという手法を取り入れています。スコアリングとは、Key Resultの達成度を数値化(採点)することです。Googleでは、0.0~1.0のスコア幅で表しています。
目標例を出してスコアリングのやり方を確認してみましょう。
Objective:新しいサービスの収益を拡大する
Key Results:
例えば上記のようにObjectiveとKey Resultsを設定したとします。Googleでは、四半期ごとに期の終わりに結果を0.0~1.0でスコアをつけます。例えば、2つ目の目標の結果が15%の収益アップを達成できなかった場合は半分の0.5、3つ目の目標で全ての施策を実施することができたら満点の1.0というように結果に応じて数字を出していきます。
最終的には、この3つのKey Resultsの平均値がObjectiveのスコアとなります。達成度が高すぎる場合は、目標設定が低すぎたと考えられ、逆に低すぎる場合は、目標設定が高すぎて、適正な目標設定ではなかったと推測することができるのです。
Googleほどの大規模な企業になると、従業員全員の声を聞き管理することはかなり難しいでしょう。Googleでは、四半期ごとに、前期のOKRの結果と次期のOKRを全社員の前で発表する場を設けます。そして、それだけに止まらず、毎週木曜日に世界各地にTGIF(Thanks God It’s Friday)ミーティングをリアルタイムで配信し、全社員が見れるような体制を整えています。この場では、従業員と経営陣が直接コミュニケーションを取ることができ、世界的な大企業にもかかわらず、風通しの良いボトムアップな職場環境づくりを徹底しています。
前述したように、OKRの特徴はチーム、個人が企業目標達成に直結する目標を作り、短期的なレビュー、達成まで完結するボトムアップなマネジメント手法です。この特徴から、規模の大きな大企業への導入は難しいと考えるかもしれませんが、それをいまだに実践しているGoogleは、これからOKRを導入しようとしている大企業にも参考になる部分が多々あることでしょう。
今となっては、フリマアプリ運営の最大手となっているメルカリですが、メルカリは、設立から間もない2015年にOKRを導入しました。その頃は、まだ従業員数も50~100人という状態でした。その後順調に従業員数も伸ばしており、今では1,232人にのぼっています。
メルカリは、企業として急速に成長をしたので、会社の目標と個人の目標がずれてしまう危険性を感じ、OKRを導入しました。
メルカリのOKRの特徴は大きく分けて2つです。
それぞれについて詳しく見てみましょう。
メルカリのOKRは、Key Resultsをわかりやすくてシンプルなものに設定していることが大きな特徴です。前述したように、一般的にはひとつのObjectiveに対して、Key Resultsは3~4つ設定します。しかし、メルカリでは、そのKey Resultsをとことんシンプルにすることに注力をしています。
Objective:USの問い合わせ数を増やす
Key Results:
上記のように非常にシンプルなKRを設定します。KRをシンプルにすることで、チーム全員にとってわかりやすいこと、そしてすぐにアクションに移しやすいことがメリットとして挙げられます。シンプルにすることで、目標に対して集中をすることができ、より大きな成果を見込めます。
チームでのOKRを設定する際には、メルカリを参考に、シンプルなKey Resultsを設定するよう心がけてみてください。
メルカリでは、個人の1on1を義務付けています。1on1を行う際に重点を置いているポイントは2つあり、「達成可能性が50%のものか」「わくわくする目標か」の2点です。この2点について特に話し合うようにしています。あまりに現実的な目標設定にならないよう、マネジャーは従業員と話し合いの場を持ち、チャレンジングな目標が設定できるようにサポートをします。
先に紹介したGoogleもそうですが、メルカリのような1,000人規模の大きな会社では、個人であまり複雑すぎる目標を立てず、シンプルで誰が見ても認識しやすいOKRを設定することが成功につながることでしょう。
社内コミュニケーションツールの開発と運用を行うチャットワークがOKRを導入したのは2017年です。導入を始めた理由は、社員数が増加したことにより、会社の戦略と方針が現場まで浸透しづらくなっているという危機感がありました。しかし、導入当初はなかなか運用はうまくいかなかったようです。その理由としては、「そもそも目標設定の文化がなかった」「人事評価との連動をうまく行わなかった」ことが挙げられます。
そこで、チャットワークのOKR導入目的の大きなポイントは、「評価制度の一新」と「従業員と目線を合わせる経営」と言えます。
チャットワークは、2018年からOKRの達成度を評価と直接結びつけることをやめました。ちなみに、これはメルカリも同様です。その代わり、評価要素として行動評価、目標評価、業績評価の3つを定めました。
行動評価では、OKRに対してどれだけチャレンジをできたかを評価します。これにより、たとえOKRの達成度が0%だったとしても、マネージャーがしっかりとした評価理由を明示することができれば、良い評価がつくことも可能になりました。導入当初のOKRの運用方法を見直し、より従業員が自然体でチャレンジできる環境をつくるために活用をし始めたことにより、OKRが定着し前向きにチャレンジできる企業文化が生まれたのです。
OKRの目的のひとつとして、従業員のチャレンジ精神を養うということがあります。チャレンジ精神旺盛な企業は、より大きな成果も出しやすいことでしょう。OKRを導入してなかなかうまくいかなかったとしても、運用方法を見直し軌道修正をすることで、その企業に合ったかたちで運用することも可能なのです。
今回は、OKRを導入し成功した3つの企業の事例をご紹介しました。今回は、一部の企業の紹介にはなりましたが、自社と似た事例を参考にすることで、より前向きにOKR導入に踏み出せるのではないでしょうか。
OKRを導入すればすぐに上手くいくとは限りませんが、今回ご紹介した事例のように、自社の課題を見つけ、目的意識を持って自社に最適な方法見つけることができれば、組織の推進力を大きく底上げすることが期待できます。
ぜひ今回の事例を参考にしつつ、自社でOKRを導入する場合はどのようなかたちがベストなのか考えてみていただければと思います。