2021.10.4
今回のテーマは「フィードバック」です。もちろんみなさんフィードバックという言葉はご存知だと思いますし、実際に自社でも実践している方も多いかと思います。しかし、「自分のフィードバックのやり方が正しいのかわからない」「あまり効果が感じられない」などの悩みを抱えている管理職やリーダーの方は多いのではないでしょうか。
フィードバックにはいくつか種類ややり方のポイントなどがありますが、従業員一人ひとりに合わせたフィードバックを行うことで、通常以上の効果を期待することができます。
本記事では、誰もが聞いたことがあるであろう「フィードバック」の概念を改めて整理し、その種類や方法について具体的に解説をしていきます。これからフィードバックを行おうとしている方はもちろん、今までわかってはいたけれど、なかなか自分のフィードバックに自信を持てていなかったという方もぜひ参考にしていただければと思います。
まず最初に「フィードバック」という言葉の意味を改めて整理したいと思います。そもそも、ビジネスシーンで使われる「フィードバック」はどのような意味で使用されるのでしょうか。
フィードバック(feedback)は、「feed(餌を与える)」と「back(戻す)」という2つの単語をつなげた言葉で、「評価、意見」という意味で主に使われます。実は、元々工学用語であり、出力値が目標値まで届くように、結果を入力側に戻していく意味で使われていました。ここから、求める結果とのズレの原因を当事者側に伝えることを「フィードバックする」と言うようになりました。
ビジネスにおけるフィードバックとは、相手の行動に対して評価や改善点を指摘し、軌道修正を促すことを言います。企業では、主に評価面談や1on1、プロジェクトの振り返りなどの際に、上司から部下に対して行われます。
フィードバックとよく比較される概念に、「フィードフォワード」というものがあります。フィードフォワードは、現在進行中のプロジェクトなどに対して提案を行うものを指します。わかりやすく言うと、「フィードバック」は過去に目を向けて行われますが、「フィードフォワード」は、過去ではなく未来に目を向けていると言えるでしょう。つまり、フィードバックを行えば、プロジェクトは終わってしまっていますが、次回以降のプロジェクトにその反省を活かすことができます。一方で、フィードフォワードの場合は、まだプロジェクが進行中ということになるので、そのプロジェクトの完成度を高めることができます。2つの間で行うことにそこまで違いはありませんので、実際に行うタイミングが異なるという点が、2つを分ける大きな違いです。
ではなぜフィードバックを行うのでしょうか。フィードバックの目的と効果は、大きく三つに分けることができます。ここでは、その三つについて解説していきます。
フィードバックは、人材育成に対して非常に有効です。人材育成の側面から行うフィードバックの場合は、メンバーそれぞれの課題によって内容が変わります。フィードバックを与える側は、答えをただ与えたり、自分の考えを相手に押し付けるのではなく、抱えている課題や悩みに対して気づきを与えるようアドバイスをしていき、解決方法やその取り組みを促していくようにします。フィードバックをもらう側は、フィードバックをきっかけに浮き彫りになった自身が持つ課題の解決に取り組みます。
フィードバックはこまめに行うことで、よりチーム全体の能力向上につながると考えられています。
2つ目に挙げられるのは、モチベーション・エンゲージメントの向上です。上司からフィードバックを与えられることで、従業員は自分が何を求められ、何を期待されているのかを知ることができます。また、フィードバックの具体性が増せば増すほど、従業員のモチベーションを刺激することができるでしょう。自分が何を期待されているかを明確に把握できれば、自分の役割を認識することができるので、モチベーションが向上する可能性が高いです。さらに、フィードバックをこまめに丁寧に行うことによって、「自分のことを気にかけてくれている」という従業員の意識も高まり、上司や会社への信頼感も高まるので、結果としてエンゲージメントの向上にもつながるのです。
フィードバックは決して個人単位に対してのみ行われるものではありません。チームや事業部門に対しても行われます。チームや事業部門という単位に対してフィードバックを行うことで、プロジェクトに従事している当事者だけでは気づくことができなかった、外部からしかなかなか見えない課題が明確になり、プロジェクトの生産性や品質が向上し、より目標達成に近づくことができるでしょう。
一言でフィードバックと言っても、冒頭にも挙げたようにいくつかの種類と手法があります。ここでは、フィードバックの主な2種類と、3つのフレームワークをご紹介します。
「ポジティブ・フィードバック」とは、文字通りポジティブなフィードバックを与えることです。フィードバックを受ける側に対して、肯定的で前向きな表現を用いて評価を伝えることで、対象者の承認欲求を満たし、自己肯定感を高めることでモチベーションを高める効果が期待できます。
フィードバックを行う際には、基本的にはポジティブ・フィードバックを与えるスタンスで臨むのが良いでしょう。もちろん、ネガティブなことを伝えるよりも、ポジティブなことを伝えるほうが、相手も聞き入れやすくなるはずです。
上記のポジティブ・フィードバックの対となるのが「ネガティブ・フィードバック」です。ネガティブ・フィードバックは、その名の通り否定的な言葉が用いられるため、かえってマイナスな影響を与えかねません。そのため、基本的にはあまり使われませんが、リーダーや幹部候補など、より主体性を求められる人材に育成には有効だと考えられています。
実際にネガティブ・フィードバックを実践する際には、言葉を選んだり、相手を選ぶなど、細心の注意を払って実施することが必要になるでしょう。
「SBI型」は、Situation(相手の状況)→Behavior(相手のふるまい)→Impact(それによる影響)の順にフィードバックを行う方法です。順序立てて物事を伝えるため、受取手としても結果と原因を理解しやすく、納得してもらいやすい手法です。また、この手法は、ポジティブ、ネガティブ両方のフィードバックに用いることができるのも特徴です。
「FEED型」は、FACT(相手の取った行動)→Example(その行動を指摘する理由)→Effect(その行動による影響)→Different(次回への代替案・改善案)の順に説明をしていくフィードバックです。相手の行動をスタートに、次回までの改善策までの一連の流れを伝えられることが特徴で、相手の行動変容を促しやすい手法と言えます。
「KPT型」は、エンジニアの開発現場で1週間の振り返りによく使われる手法です。「Keep(今後も続けるべきこと)」→「Problem(今抱えている問題)」→「Try(改善すべき課題)」の順で伝えるフレームワークです。このフレームワークは、上司と部下がコミュニケーションを取りながら進めていくことが多く、会話を通じて部下に自発的な行動改善を促すことができます。
効果的なフィードバックを行うためには、いくつかのポイントがあります。それらのポイントをしっかりと意識した上で行わないと、逆に対象者から「何のために呼ばれてこの時間を取っているのだろう」と思われてしまったり、納得してもらえずに、逆にネガティブな影響を与えて終わってしまうという危険性があります。ここでは、主な4つのポイントをご紹介します。それぞれのポイントをしっかりと意識して、効果の高いフィードバックを行うようにしましょう。
フィードバックを行う際は、メンバーが行動したり成果を出したりした場合、その後すぐに行うようにしましょう。時間が経ってしまうと、人は細かい部分まで覚えていないというのは往々にしてあることです。あまりに過去のことを指摘しても相手に実感が湧かず、あまり有効な効果は期待できません。
行動や成果とフィードバックを結びつけやすくするためにも、フィードバックは早ければ早いに越したことはありません。逆に、フィードバックが遅くなればなるほど、その効果は薄れていってしまうと覚えておきましょう。
フィードバックの内容はできるだけ具体的にするよう心がけましょう。内容が抽象的だと相手にうまく伝わらず、相手もどのように行動を改善すれば良いのかがわかりません。先ほどご紹介したSBI型などを用いて順序立てて説明をすることによって、具体的なフィードバックになりやすくなります。部下が次に行うべき行動をイメージできるような、具体的なふフィードバックを行うようにしましょう。
客観的な視点を持ってフィードバックを行うことも重要です。あまりに主観的なフィードバックだと、内容も曖昧になりがちで、相手に受け入れてもらえないかもしれません。客観的視点を持ち、相手の意志も尊重しながら行うことが大切です。
フィードバックを行う際は、あくまで事実ベースで話を進めるようにしましょう。事実ベースで行うことによって、客観性をある程度担保することができ、相手も納得のしやすいフィードバックを与えやすくなります。
フィードバックを行う大前提として、信頼関係があります。同じフィードバックを与えるにしても、誰がフィードバックを行うかによって、相手の受け取り方も変わるでしょう。
フィードバックは、批判的な評価を行うためのものでなく、そのことをしっかりと相手に事前に伝えておくことが大切です。また、日頃からフィードバックが成立しやすい関係性を築いておくことで、より高いフィードバックの効果が期待できます。
最後に、フィードバックを行う際に絶対にやってはいけないことを2つご紹介します。先ほどの気をつけるべきポイントを裏返せば自然とやってはいけないことは想像できると思いますし、どれも当たり前のことと言えば当たり前のことなのですが、特に部下と話すとなると、どうしても自分のペースでフィードバックを行ってしまいがちです。改めてやってはいけないことを確認して、自身のフィードバックに活かして頂ければと思います。
フィードバックでは、他の従業員と比較して問題点などを指摘してはいけません。「◯◯さんは、このような施策をして君の倍の結果を出している」などの発言は、自主的な気づきのきっかけも与えられず、相手のモチベーションを大きく低下させてしまう恐れがあります。
大切なのはあくまでその人が自分で考え行動できるように助言をし促すことです。決して評価者の主観的な視点で評価や判断をしないようにくれぐれも気をつけましょう。
フィードバックの目的は、決して部下を叱ったり褒めたりすることではありません。「あなたの性格ではこれは難しい」や「これをするにはあなたの能力が足りない」など、人格や能力を否定する表現は避けるようにしましょう。
行動の改善を促し、それを結果につなげることがフィードバックの目的であり、人格や能力の適正判断はその範中ではありません。これも、従業員のモチベーションを大きく低下させ、信頼を失ってしまう恐れがあります。
本記事では、フィードバックの意味や効果、そして種類や手法について解説をしました。フィードバックを活用することで、従業員それぞれの課題や問題点を見つけたり、モチベーションを大きく向上させることもできます。また、頻度や内容を工夫することで、さらに大きな効果が期待できることでしょう。
そして、フィードバックはあくまで評価を受ける側のためのものであり、目的はあくまで対象者にとってプラスになるものでなければならないということをしっかりと認識しましょう。評価者は、常にこの点を意識し、従業員の未来につながるフィードバックを心がけましょう。