「戦略人事」とはなにか?企業の導入事例をもとに解説

更新日: 2022年4月4日

社会情勢の変化が進む中で自社の競争優位性を維持するために、戦略人事に取り組む企業が増えています。まだ体系的に取り組んでいないとしても、戦略人事の詳細を調べて導入しようと考えている方もいるのではないでしょうか?

この記事では戦略人事とは具体的に何を指しているのか、どのように進めればよいのかを解説します。自社の状況にマッチした取り組みを展開するのに必要な情報を取り上げますので、ぜひ参考にしてみてください。

戦略人事の進め方を詳しく知れば、自社がさらに成長するために何に取り組めばよいのかが見えてくるでしょう。

戦略人事とは

戦略人事とは、以下の2要素で構成される人事上の施策です。

  • 事業上の目標を達成すること
  • 人材をマネジメントすること

人事は人材をマネジメントする役割ですが、「戦略人事」と呼ばれる場合は「事業上の目標を達成する」という明確な目的があります。戦略的人的資源管理 (SHRM) と呼ばれることもあるため、あわせて覚えておきましょう。

戦略人事という考え方は1990年代にデイビッド・ウルリッチが提唱したもので、「攻めの人事」と呼ばれることもあります。具体的な人事施策に関する資料は以下からダウンロードできますので、興味がある人はぜひチェックしてみてください。

こちらの資料では各役職の役割と意義、マネジメントの要点と成長企業が実施している強化施策についてわかりやすく紹介しています。また、マネージャーを育てるための即効性のある施策をお探しならこの資料が必ず役に立ちます。ぜひご活用ください。

これまでの人事部との違い

人事部がこれまで行っていた仕事は、基本的に人事に関するオペレーション作業でした。具体的な仕事内容は以下のようなものです。

  • 採用
  • 配置
  • 労務管理
  • 福利厚生
  • 人材開発

従来型の人事業務は上記のように基本的な管理に徹することが多く、守りの人事とも呼ばれます。

戦略人事は経営層と密接に連携し、経営戦略を達成するための人事施策を立案するのが大きな違いです。具体的な業務には以下のものが含まれます。

  • 専門スキルをもった人材を確保できるように採用業務自体を見直す
  • 評価制度や昇進制度、報酬体系を見直す
  • 人員配置の適正化・必要に応じた業務のアウトソース化を実行する

企業としての目標を達成するために、人事分野の改革に積極的に取り組むのが特徴です。オペレーション作業にとどまることなく、積極的に経営にかかわる必要があります。

「人事戦略」と何が違う?

「戦略人事」と「人事戦略」はよく似た言葉なので混同しがちです。しかし、この2つには以下のように明確な違いがあります。

  • 戦略人事: 競争優位性 (他社との差別化) にコミットして人事業務を遂行する
  • 人事戦略: 日常的な人事業務を遂行し、必要に応じて業務をどう改善するかを考える

競争優位性に直結する経営戦略に密接に関連しているかどうかが大きな違いです。

一例として、「マーケティングの効果を高める目的のAIツールを導入し、運用するためにデータ分析の専門家を採用する」というのが戦略人事にあたります。「マーケティングチームで働く従業員の成果を振り返り、パフォーマンスを発揮できそうなポジションに配置する」といった業務改善が人事戦略です。

戦略人事で重要な4つの機能

戦略人事には、実現するために必要な4つの機能があります。これから人事面を強化しようと考えている方は、以下の4要素を一通りチェックしてください。

  • HRBP(HRビジネスパートナー)
  • CoE(センター・オブ・エクセレンス)
  • OD&TD(組織開発&人材開発)
  • OPs(オペレーションズ)

それぞれ何を意味するのか、戦略人事にどのようにかかわるのかをチェックしていきましょう。

HRBP(HRビジネスパートナー)

HRビジネスパートナーとは、経営のパートナーとして事業の成長に責任を持つチームです。人事の一機能であり、「人材」と「企業組織」の両面からサポートする役割を果たします。HRBPの具体的な活動内容は以下の通りです。

  • 採用計画の立案
  • 人事制度の設計
  • 現場からフィードバックされた課題の解決策の立案
  • 人事コンサルティングの実行

社会情勢の変化に対応し、激化する人材獲得競争を勝ち抜いて企業の持続的な成長を実現するために欠かせません。

「事業戦略を実現するための施策立案」と「施策実行に必要な活動の実行」という2つの面から経営をサポートします。

CoE(センター・オブ・エクセレンス)

CoEは「人事に関連するコンサルティング機能」を指すワードです。前述したHRBPをサポートする役割を果たし、採用活動や制度設計で力を発揮します。具体的な業務内容は以下の通りです。

  • 採用計画を立てる
  • 人事評価制度を設計する
  • 報酬制度を設計する
  • 社内教育プログラムを開発する

一例として、HRBPが採用計画を立案した場合を考えてみます。この場合、CoEの仕事はHRBPが提示した採用計画を成功させるために、どのように採用活動を展開すればよいのか考えることです。

求人広告を出す媒体を考慮したり、書類選考や面接のプロセスを設計したりします。入社した人員をどう育成するかを考えるのも重要な仕事です。CoEは施策を実行する部署ではないため、「計画を実現するための施策を立案する」ところまでを行います。

OD&TD(組織開発&人材開発)

OD&TDは組織開発 (OD) と人材開発 (TD) を一体的に行う企業活動です。組織開発と人材開発は異なる要素のように見えますが、実際には密接に関連しています。それぞれの目的を以下で見ていきましょう。

  • OD (組織開発) : 企業という組織を成長すべき方向に誘導するためのプログラム
  • TD (人材開発) : 理想とする企業組織を実現するための人材を確保・育成するプログラム

組織を構成するためには、人材の存在が欠かせません。「OD」で理想とする組織形態が定まったら、どのような人材が必要か考慮します。その結果に基づいて「TD」を実行して必要な人材を確保するのが基本的な流れです。

ODとTDは密接に関連しており、どちらか一方でも機能していないと、理想とする組織は実現できません。この2つはセットで運用するようにしましょう。

OPs(オペレーションズ)

OPsは実務を行う専門部署です。先ほど紹介したCoEが設計した制度に基づき、採用活動や教育活動、労務管理を行います。具体的な内容は以下の通りです。

  • 求人広告を出稿する
  • 選考活動を行う
  • 社員教育活動のプログラムを実行する
  • 賃金計算・支給・税務等の人事業務を行う

これまでに紹介したチームと関連しており、HRBPが全体の戦略を立案して、CoEが具体的な施策を設計し、OPsが実行するという関係があります。それぞれのチームが自分たちが果たすべき目的にフォーカスし、分担して携わることで戦略人事を効率的に進めます。

戦略人事における人材マネジメントの一例

戦略人事を効果的に進めるには、必要とされるマネジメント手法をきちんと理解しておくことが大切です。戦略人事の現場で使用する人材マネジメント手法として、今回は以下の3つを紹介します。

  • 【採用】ダイレクトリクルーティング
  • 【育成・配置】タレントマネジメント
  • 【評価】OKR

それぞれどのようなマネジメント手法なのか、何に役立つのかをチェックしましょう。戦略人事の導入や効果向上を目指しているなら一通り確認してみてください。

【採用】ダイレクトリクルーティング

ダイレクトリクルーティングとは、企業側から求職者にアプローチして自社のニーズにマッチした人材を発掘する取り組みです。以下のプロセスで採用活動を進めます。

  1. 転職サイト・転職エージェントに求人広告を出稿する
  2. 登録者の中からスカウトを送る対象者を抽出する
  3. スカウトメールを送信する
  4. 反応があったユーザーを対象に選考活動を進める
  5. 採用する人材を決定する

通常は求人広告を出稿したら応募があるのを待ち、選考活動を進めます。そのため、自社のニーズにマッチしない応募者とのやり取りに手間がかかって、なかなか進まないのがデメリットです。

ダイレクトリクルーティングなら、スキル面などで自社にマッチすると見込まれる人材に直接アプローチできます。そのため、より効率的に採用活動を進められるでしょう。

【育成・配置】タレントマネジメント

タレントマネジメントとは、従業員ひとりひとりがもっている固有スキルやパフォーマンスを資源と考え、適材適所に配置することを目指すものです。従業員は自分がもっているスキルを活用できるポジションに配置されることで本領を発揮するため、適性な配置が欠かせません。

タレントマネジメントは人材の採用から定着までを一貫してマネジメントするもので、以下の業務が含まれます。

  • 採用: 経営目標を達成するために必要な人材を市場から調達する
  • 育成: 研修などを通してより自社のニーズにマッチした人材として育成する
  • 配置: スキルや業務に発揮できる能力に注目して最適なポジションにアサインする
  • 定着: 適性なキャリアパスを提示するなど、モチベーションを保ちつつ活躍し続けられる環境を提供する

これらの活動は全て、有用な人材を採用して自社で長く活躍してもらうことが主な目的です。

【評価】OKR

OKRとは評価制度の構築に活用できる目標管理フレームワークです。OKRはひとつの大きな目標を定め、それを実現するための成果指標を決めます。それぞれの目標を決めるときのポイントは以下の通りです。

  • 大きな目標: 企業の方向性を決定する定性的な指標
  • 成果指標: 達成状況を明確にできる定量的な指標

指標には野心的なものを設けるのがOKRの特徴で、達成するためにスタッフが一丸となって努力することでさらなる成長を促せます。スタッフにとっては会社への貢献度合いが明確になり、報酬面に反映されることでモチベーションが高まるのがメリットです。

OKRについては以下のコラムでも詳しく解説していますので、詳しく知りたい人はぜひ参考にしてください。

OKRとは?Google採用の目標管理フレームワークを導入事例を交えて紹介。KPIやMBOとの違いも解説

戦略人事を成功へ導くポイント

戦略人事は闇雲に導入しても成功に繋がるものではありません。成功確率を高めるためにも、ここで紹介する2つのポイントはしっかり押さえておきましょう。

  • 社内に戦略人事の重要性を理解してもらう
  • オペレーション業務をなるべく自動化する

モチベーションアップと業務効率化が成功の鍵です。

社内に戦略人事の重要性を理解してもらう

立派な戦略人事を立案したとしても、実行するのは「人」なので、重要性を理解してもらわなければ先に進みません。特に戦略人事は経営戦略と関連する分野なので、経営層は全員明確に理解しておきましょう。

さらに、従業員ひとりひとりが戦略人事の重要性を理解することも大切です。重要性を理解していないと自分のこととして捉えず、非協力的な従業員を大量に生み出すことにも繋がります。

定期的に研修を開くなどして、戦略人事がなぜ重要なのか、自社がどこを目指しているのかを明確にしましょう。

オペレーション業務をなるべく自動化する

戦略人事を実行するとなると、そのためにある程度のリソースを割り当てなければなりません。今までの業務にプラスして戦略人事関連の業務を行わなければならないため、ひっ迫して対応しきれなくなることがあります。

これを防ぐためにも、以下に挙げるオペレーション業務は可能な限り自動化し、戦略人事に充てられるリソースを確保しましょう。

  • 目標管理
  • 評価
  • 賃金計算
  • 労務管理
  • 法務
  • 広報

これらの業務をすべて自動化できるとは限りません。人力で行わなければならない部分のみを人力で行い、自動化できるところは自動化するのが基本的な考え方です。場合によってはこれらの業務をアウトソースするという対応方法も有効です。

企業の戦略人事の事例

最後に、実際に企業が取り組んだ戦略人事の事例からさらに詳しく学びましょう。今回取り上げるのは次の有名企業3社です。

  • 日清食品
  • 味の素
  • ヤフー

実際の取り組みについて知ることで、自社がどのように戦略人事に取り組めばよいか見えてくるでしょう。

日清食品

日清食品は1948年に創業した食品メーカーで、2014年から戦略人事に取り組んでいます。企業が将来あるべき姿を方向づけ、必要な人材の調達・育成を継続して行っています。日清食品では、対象者を以下の4ブロックに分けて教育プログラムを行っているのが特徴です。

  • 若手・中堅
  • 係長・課長
  • 役員対象者
  • 経営者候補

それぞれのポジションに応じて必要な教育を施すことで、グローバル人材を育成しつつ次世代の経営基盤を築くことに成功しました。

味の素

味の素は食品や医薬品を製造・販売する企業で、継続的な成長やダイバーシティの実現を目的として戦略的人事に取り組んでいます。フォーカスするポイントは個人の成長と企業の成長の2つで、それぞれの取り組みは以下の通りです。

個人の成長・継続的に自律的成長の促進・働きがい・生きがいを実現
企業の成長・ダイバーシティ推進によるイノベーション実現・生産性向上と業務の可視化

これらの取り組みとあわせて経営基盤の強化にも取り組み、盤石な経営体制を築いています。

制度の整備とあわせて人材マネジメントにも取り組み、多くのリーダー候補者を生み出すことに成功しました。

ヤフー

ヤフーはインターネット関連の事業を手掛ける総合IT企業で、2012年から人事改革に着手して戦略人事に取り組んでいます。具体的な施策の内容をチェックしてみましょう。

  • ポテンシャル採用の導入
  • ヘッドハンティングの実施
  • 表彰制度の制定
  • キャリア開発支援プログラムの実施

これらの人事改革を行うと同時に、働き方改革や人材マネジメントの変革にも取り組みました。多くの施策実行を伴う大改革を実施することで、300人を超えるリーダー候補者を生み出すことに成功しています。

働きやすい環境づくりとモチベーションをアップさせる仕組みづくりの両方に同時に取り組んだのが特徴です。

企業の事例を参考に戦略人事をうまく取り入れよう

戦略人事は急速に変化する世の中の流れに対応し、持続的な成長を実現するために欠かせません。とはいえ、経営戦略とセットで実行する人事業務なので、全社的に一丸となって取り組む必要があります。

人事面で何らかの課題を感じているなら、この機会に戦略人事に取り組んでもよいでしょう。成功している企業の事例も参考にできるので、自社に適用できそうな部分があればぜひ検討してみてください。

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