2022.7.20
人事関連のニュースをチェックしていると、「抜擢(ばってき)人事」という言葉を目にする機会があります。しかし、「抜擢人事と聞いても具体的に何を意味しているのかわかりにくい」と感じている人もいるのではないでしょうか?
そこで、この記事では抜擢人事の概要やメリットをご紹介します。実際に抜擢人事に取り組んだ企業の事例についても紹介するので、人事制度の改革を考えている企業は必見です。
抜擢人事に取り組み、人員をスキルや適性に応じて適材適所で配置することは、さらなる業績UPにつながるでしょう。
抜擢人事は、特定のポジションに人員をアサインするときに「実力とスキル」に注目するのが特徴です。そのポストで成果を出せそうな従業員は誰かを考え、適切だと思われる人材を登用します。
一例として、「マーケティングの成果を上げたい」と考えているときを例にしてみましょう。マーケティングチームのリーダーを選出するときは、マーケティングに関する知識・スキルが豊富で成果を出せそうな人をリーダーに登用します。
この際に入社時期や勤続年数、現在のポジションは考慮されません。あくまでもその人が発揮できそうなスキル、期待できる成果にもとづいて登用するかどうか判断するのが特徴です。抜擢人事で考慮するのは実力で、非常にフェアな制度といえます。
企業の存在価値や市場競争力を高めるために抜擢人事が求められています。抜擢人事が求められる具体的な背景には以下のようなものがあるため、ここでチェックしておきましょう。
それぞれのポイントを詳しく解説するので、自社のビジネススピードを上げて成果につなげたいと考えている人は必見です。
市場の状況は急速に変化するため、企業側が柔軟についていくためにはビジネスのスピードを上げなければなりません。
ビジネスを推進するスキルのある人材を重要なポストにアサインすることで、意思決定スピードを速める効果に期待できます。具体的には、以下のポストで抜擢人事を採用するとよいでしょう。
企業内で意思決定に直接かかわるポジションに、スキルをもった人材を配置することは、ビジネスのスピードを速める上で欠かせません。
人事評価制度として幅広く用いられている「職務等級制度」と相性がよいのも、抜擢人事の特徴です。職務等級制度は、従事している職務内容によって評価・報酬を定める評価形態で、優秀な人材を適切に評価しやすいというメリットがあります。
高いスキルを発揮できる人材を適切なポストにアサインし、それに見合った報酬を支払うのが基本です。職務等級制度の基本を考えると、成果を出せる人材を高いポストに登用する抜擢人事と相性がよいことがわかるでしょう。
次に、抜擢人事でよくある登用パターンを紹介します。適切な人員を適切なポジションに就けるために、以下のパターンがよく用いられます。
それぞれのパターンを詳しくみていきましょう。
リーダー経験がない従業員であっても、有用なスキル資格を保有しているなど、高いポテンシャルを秘めた従業員が存在するケースがあります。そのような従業員を各チームのリーダーやマネージャーに登用するのも、抜擢人事でよくあるパターンです。
このパターンの抜擢人事を検討しているなら、登用後にスキル不足が発覚しないように、事前に各従業員のスキルレベルをきちんと把握しておく必要があります。
新たな分野のビジネスを立ち上げる場合など、社外から必要なスキルを持った人材を採用する方法があります。一例として、店舗販売を行っているアパレルショップがECサイトを開設する場合を考えましょう。
このショップは店舗販売のスキルを持っているものの、ECサイトを運営するスキルが不足しています。そのため、外部からECサイトを運営した経験がある従業員を採用し、ECチームにアサインするのが有用です。
必要があれば、外部の人材にコンサルティングを依頼するケースもあります。社内に特定のスキルを有する人材がいないときは、社外から調達して高いポジションにアサインするのも抜擢人事の特徴です。
一般スタッフとして働いている従業員の中で、とくに高い成果を出している人がいるなら、リーダーやマネージャーなどの高いポジションに登用できます。抜擢人事では、たとえその従業員が当該チームに入ったばかりだとしても、スキルや成果を高く評価して重要なポジションに登用します。
選考基準において成果を重視することで、成果につながるスキルをもつ人材を有効活用し、チーム全体の業績を高める効果に期待できるでしょう。
抜擢人事には多くのメリットがあります。とくに大きなメリットは以下の5つなので、ここでチェックしておきましょう。
これからひとつずつ詳しく紹介します。抜擢人事のメリットが見えにくいと感じている人は、ぜひ一通り確認することをオススメします。
抜擢人事は、高度なスキルを有している従業員を高いポジションに登用するシステムです。登用する社員を選別する条件は成果やスキルで、所属や勤続年数、現在のポジションは関係ありません。これにより、以下の効果に期待できます。
適切かつ公平な評価にもとづいて抜擢人事を運用することで、企業全体の生産性を高められるのは大きなメリットです。
抜擢人事を運用するには、一人ひとりのスキルやポテンシャル、これまでの成果を正しく把握することが欠かせません。この過程で、これまで埋もれていたスキルに気づくこともあるでしょう。
各従業員のスキルや得意分野を把握して正しく評価することは、人材を適材適所で活用することにつながります。
企業側にとっては貴重な人材を有効活用でき、従業員側にとっては自分のスキルを最大限発揮できる環境で働けます。スキルと職務のミスマッチによる離職を防ぎやすくなるのも大きなメリットです。
抜擢人事が導入されている環境では、「求められている成果」を出すことで誰でも上位のポジションに就任する道が開かれています。「成果を出せば評価される」という環境を準備することで、従業員一人ひとりのモチベーションを高められるでしょう。
モチベーションが高い状態を維持することで生産性を高められるため、全社的なメリットを享受できるでしょう。
業務で出した成果が正しく評価されることを知った従業員は、より高いポジションを目指してスキルを習得することに励むようになります。抜擢人事を採用すること自体が、従業員の自己研鑽を促すことになるでしょう。
自己研鑽に励む従業員が増えれば、組織全体のスキルレベルが向上して業務のクオリティが高まります。従業員の成長は、組織全体の成長につながることを意識しておきましょう。
市場環境の変化や技術面の変化などによって、今までとは異なる形で業務を進める必要性に迫られることもあります。その際に抜擢人事を導入していれば、求められている新たなスキルを有する人材を迅速に登用しやすくなるでしょう。
一例として、これまでオンプレミス環境のシステムをメインに開発している企業があったとします。環境の変化に伴ってクラウドへの移行が求められるようになった場合、クラウドに関する知識・スキルを有する従業員をリーダーにして業務を進められるようになるでしょう。
抜擢人事を導入していない場合、必要な変化を遂げられない状態が長く続いて最新の技術に対応できず、ビジネスチャンスを逃してしまうことにもつながりかねません。
抜擢人事には多くのメリットがありますが、見逃せないデメリットも存在します。人事改革に取り組んでから後悔することを防ぐためにも、以下の3つのデメリットを意識しておきましょう。
それぞれどのようなデメリットなのか、どう対策すればよいのかを解説します。必要な対策を施し、抜擢人事をスムーズに導入しましょう。
抜擢人事を導入すると、本人や周囲の人間が驚くような人事が行われることがあります。
そのため、選考過程が不透明だと、抜擢されなかった従業員の不信感が高まります。「不公平な選考基準があるのではないか?」「経営層の好みで選んでいるのではないか?」と思われてしまうこともあるでしょう。
従業員の不信感を不必要に高めないためにも、選考基準や過程、抜擢した理由を公開して誰もが内容をチェックできるようにすることが大切です。
未経験の従業員を高いポジションにアサインするときや、社外から必要な人員を調達するときはスキル不足に注意しましょう。十分なスキルを有すると判断したものの、いざ抜擢してみるとスキルが不足していることが露呈するケースがあります。
スキル不足を事前に見抜けないと、抜擢人事そのものが失敗することになりかねません。選考時にスキルチェックを行うなど、抜擢する予定の従業員のスキルレベルがどの程度なのか、職責を果たすのに十分なレベルに達しているのかを判断しましょう。
これまでまったく抜擢人事を採用しておらず、社内試験や勤続年数などを基準にして人事判断を行っていた場合、抜擢人事の制度が定着するまでに時間がかかる可能性があります。
旧来の人事制度が定着していると、従業員からの反感を買うこともあるでしょう。しかし、企業全体の将来を考えると抜擢人事の導入は避けては通れない道です。
抜擢人事を導入する理由や導入によって得られる効果、企業全体への影響などを全従業員に説明し、必要性を理解してもらうように努力しましょう。
最後に、抜擢人事を実際に導入した企業の事例について見ていきましょう。今回紹介するのは、以下の3企業です。
それぞれの企業がどのように抜擢人事を導入・運用しているか知ることで、自社に導入するときの参考にできるでしょう。
株式会社大丸松坂屋百貨店では、タレントマネジメントシステムを利用して人事データを一元管理し、若手社員の抜擢に活用しています。各従業員のスキルを正しく把握して管理することで、新たに発足した再開発プロジェクトに若手を抜擢することが可能になりました。
他にも、11,500人のデータを集約することで、新規事業を立ち上げる際に最適なスキルを有する人員をピックアップしやすくなるなどのメリットを享受しています。
タレントマネジメントシステム上では社員自身が情報を更新できるようになっており、フレッシュかつ有用な情報を集約して活用できています。
ソニー株式会社では、従業員のポテンシャルを最大限に発揮してもらうために以下の人事施策を運用しています。
このような抜擢プログラムだけではなく、ジョブローテーション制度も採用しているのも特徴です。ジョブローテーションを通して、社員一人ひとりに自身にマッチした専門分野を見つけてもらい、活躍してもらうことを目標としています。
これにより優秀な人材を社内につなぎ止め、グローバル企業のひとつとして成長し続けています。
株式会社サイバーエージェントには、入社9年目の従業員を子会社の取締役に抜擢した事例が存在します。ほかにも、2014年にはゲーム開発・運営を行う子会社「GOODROID」のCTOに入社3年目の従業員を抜擢した事例もあります。
新規事業を立ち上げるときに、必要なスキルを有する人材を高いポジションにアサインするのも抜擢人事の特徴で、サイバーエージェントはその一例といえるでしょう。
抜擢人事の結果、ランキング上位に入るようなゲームの開発に成功しています。スキル・ポテンシャルを重視する抜擢人事の重要性がわかる一例です。
抜擢人事は、本当にスキルがある従業員を適材適所で運用して、業績を高める効果に期待できる人事施策です。その一方で、抜擢人事に反感を抱く従業員が発生したり、アサイン後にスキル不足が露呈したりするリスクも存在します。
抜擢人事を効果的に運用するためにも、適切な環境を整えて従業員一人ひとりを正しく評価することが大切です。もし、どのように評価制度を構築するかで悩んでいる人は、成功している企業が取り組んでいる人事施策から効果的な方法を学びましょう。
以下の資料には人事施策を考える上で知っておきたい内容をまとめていますので、ぜひダウンロードしてチェックしてみてください。