2022.5.24
人事においては、多くの従業員を公平かつ適切に評価することが欠かせません。従業員の評価を決める際に役立つのが「等級制度」です。しかし、等級制度と聞いても「具体的にどのようなものなのか」「どうやって運用すればよいのかわからない」と感じる人もいるのではないでしょうか?
そこでこの記事では、等級制度の概要や一般的に用いられている制度の特徴を詳しく解説します。自社にマッチした等級制度を導入したいと考えている人は必見です。等級制度に基づいて従業員を適切に評価し、適材適所で配置することはモチベーションを高めて生産性を向上させる上で欠かせません。
等級制度は「一定の基準に基づいて従業員のランクを決め、ランクに基づいて人事施策や報酬体系に反映する仕組み」です。ほかにも、定めた基準を通して企業側がどのような従業員を求めているのかを周知する効果もあります。
しかし、一言で等級制度といっても具体的な内容はさまざまです。自社のビジネススタイルによって、どのタイプのものを導入すればよいかは異なるでしょう。
この記事では具体的な等級制度のメリットやデメリットを紹介します。実際に導入した企業の実例についても見ていくので、ぜひ参考にしてみてください。
一言で「等級制度」といっても、具体的な内容はいくつかの種類に分けられます。主流になっている等級制度は以下の3つなので、それぞれ詳しくチェックしましょう。
どの等級制度を採用するかによって、評価時に重視するポイントが異なります。自社のビジネススタイルにあわせて、適切な制度を選ぶことが大切です。
「職務等級制度」は、各従業員が担当している職務(仕事内容)に基づいてランク分けを行い、評価に反映する仕組みです。
今回紹介している3つの等級制度の中では、最も一般的で多くの企業が採用している仕組みといえるでしょう。これから職務等級制度のメリットや評価の基本を解説します。
職務等級制度において、評価基準として重要な役割を果たすのが「担当業務の内容」と「成果指標」です。具体的には以下の内容を指します。
担当業務の難易度や求められるスキルのレベルに加え、期待されている成果を出せたかどうかで等級が決まります。
業務内容と成果指標は事前に共有されるため、従業員は何に取り組んでどのような成果を出せば評価されるのか理解しやすいのが特徴です。
職務等級制度では、業務内容を記載した職務記述書の内容と成果指標によってのみ等級を決定します。勤続年数やこれまでの経験などの属人的な要素が評価対象にならないため、公平性が高いのがメリットです。
賃金体系は職務記述書に記載した業務を遂行するために必要なスキル、知識、権限などを考えた上で策定します。
誰が業務に取り組んでも、職務記述書に記載されている職務を果たし、求められている成果指標を達成していれば、同じ賃金になるのも大きなメリットです。
職務等級制度の主なデメリットは、上記の3つです。社内に存在する全ての業務を職務記述書に記載しなければならず、その過程で特定の業務が抜け落ちる危険性もあります。
もし、特定の業務が抜けてしまうとだれもその業務を担当しないことになり、忘れ去られる危険もあるでしょう。市場の変化に対応するために新たなチームを設立するときには、職務記述書の準備や人員調達が必要です。
職務等級制度を運営するときには、これらのデメリットにどのように対処するかを考えなければなりません。
「役割等級制度」はミッショングレードとも呼ばれ、一人ひとりの役割に着目した等級制度です。
比較的柔軟に制度を設計できるため、自社のビジネススタイルや人事施策にマッチした方法で導入するのがおすすめです。ここでは一般的な役割等級制度のメリット・デメリットを詳しく解説します。
役割等級制度という名の通り、評価は従業員一人ひとりの役割に基づきます。ここでいう役割とは「職務×役職」を指しており、あらかじめ役職ごとに定めた役割基準を達成しているかどうかで評価が決まるのが特徴です。
果たすべき役割は「役割記述書」という書類に記載されますが、職務等級制度で作成する職務記述書のように全てを細かく記載する必要はありません。職務を遂行するために求められる行動を簡潔に記載し、具体的な行動内容は従業員一人ひとりが判断します。
マーケティングリーダーの役割記述書を例にすると、「マーケティングチームの責任者として各種施策を立案・実行し、売上UPにつなげる」など簡潔に記載します。従業員は、「役割基準を果たすためには具体的に何を行わなければならないのか」を主体的に考えなければなりません。
役割記述書は職務記述書より簡単に準備できるため、導入にかかるコスト・時間を節約できます。一人ひとりの職務内容をすべて明記することなく役割を明確化できるのも大きなメリットで、職務等級制度より柔軟性が高まるでしょう。
将来的に業務が大きく変動する可能性が高く、状況に応じて臨機応変に対応できる仕組みづくりを重視しているなら、役割等級制度を検討してみましょう。
役割等級制度を導入すると、役職によっては「マネージャーとしてスタッフの指導に積極的に取り組み、従業員の成績UPに貢献する」といった役割が設定されます。別のケースでは「顧客を毎月訪問してヒアリングし、改善点や新たなニーズを知る」という役割も考えられるでしょう。
このような役割は必ずしも成果として数値化できるとは限らず、指標が明確化できないために主観的な評価が紛れ込む可能性があります。これを防ぐには、なんらかの成果指標と連動できる役割を考えなければなりません。
「マネージャーとしてスタッフの指導に取り組み、営業チーム全体の成績を上げる」などのように設定することで、客観的に評価しやすくなります。評価の透明化にも繋がるため、制度全体の信頼性を担保することにもつながるでしょう。
「職能資格制度」は、各従業員が保有している能力を評価指標にするのが特徴の等級制度です。職務等級制度と比較されることもあり、採用している企業も多く存在します。
柔軟性が高いという特徴がある反面、評価が難しいといわれているため、特徴をきちんと押さえておくことが大切です。
職能資格制度の評価基準は「従業員の能力」ですが、ここでいう能力は「保有している能力全般」を指します。職種を問わず活用できる能力を評価するという特徴があり、必ずしも在職中の業務で保有能力を発揮していなくても評価されます。
従業員にとっては、自身がパフォーマンスを発揮できる分野で活躍できるとは限らないのが特徴です。また、職能資格制度によって判定される等級は、必ずしも職務や役職を反映するものにはならないという特徴もあります。
職能資格制度は総合職のように、さまざまな職務に従事する従業員の評価基準に向いています。ほかにも、一般職公務員のように明確な成果指標を定めるのが難しい職種の評価基準としても適切です。
総合的なスキルを習得することを目指すため、市場環境の変化などによって大幅な変革が必要なときでも、人事異動で対応できるというメリットもあります。
職能資格制度はさまざまな業務に応用できる能力を評価するシステムであり、スペシャリストを育成するための仕組みとしては不適切です。技術職のように専門的な職能資格制度では、適切に評価できません。
さまざまな業務に応用できるスキルを評価するとなると、明確な数値基準を設定するのも難しくなります。
抽象的な基準に基づいて評価しなければならないケースがあり、主観的な評価が混ざってしまいがちです。多様な従業員を公平に評価するのが難しい点に注意しましょう。
適切な等級制度を導入することには、企業側・従業員側双方によい影響があります。主な影響は以下の通りです。
これからそれぞれのメリットについて詳しく解説するので、等級制度の導入に関して悩んでいる人は必見です。自社にとってメリットが大きいと感じるなら、等級制度の導入を検討しましょう。
企業にとっては、評価基準を明記して全従業員に提示することで、透明性が高い人事制度を運用できるようになります。主に以下のような効果に期待できるでしょう。
一例として、マネージャーに対して「グループの工程を適切に管理し、求められるクオリティの製品を納期通りに製造する」という基準を定めている場合を考えましょう。
これによって、マネージャーはプロジェクトを適切に管理し、予定通りに進めるためのマネジメントスキルが求められることがわかります。この基準を満たす従業員が高く評価されるため、透明性が高い人事評価制度を構築できます。
従業員側にとっては、企業側が求める人材・評価される人材の特徴を提示することで自身のキャリアプランを考えるときの参考資料になります。主なメリットをまとめると以下の通りです。
営業スタッフに対して「担当する職務内容に応じて継続的に業務改善に取り組み、成果につなげられる」という基準が提示されていた場合を考えます。この場合、従業員は営業施策の実行と改善を繰り返し、成果を数値の形で出せばよいことを理解できるでしょう。
さまざまなチームの等級基準を公開しておくことで、自身が目指すキャリアプランを実現できそうなチームがどこか判断するためにも役立ちます
すでに人事施策として等級制度を導入していても、うまく機能していないなどの理由で見直しを検討している企業もあるのではないでしょうか?等級制度を見直すときは、自社にマッチしたものが何かをきちんと考えないと失敗してしまいます。
前述したように等級制度には3種類存在するため、自社のビジネススタイルにマッチしていないと制度を運用しにくくなるでしょう。
一例として、エンジニア職の評価基準に職能資格制度を採用してしまうと、成果や業務に発揮しているスキルを正しく評価できません。一方で職務等級制度を導入すれば、エンジニア一人ひとりが出した成果をきちんと評価できます。
等級制度の見直しを成果や生産性向上につなげるためにも、自社のビジネススタイルに何がマッチしているかを考えましょう。
等級制度の導入・運用に関する悩みを抱えているなら、すでに導入している企業の事例から学ぶのもおすすめです。今回は役割等級制度と職務等級制度を導入した企業のうち、以下の3社をピックアップします。
それぞれの企業がどのような目的で等級制度を導入し、どんな成果を出したのかから学びましょう。
ソニーでは「ジョブグレード制度」と呼ばれる制度を運用しており、以下の2種類の等級を併用しています。
2つの等級を併用し、現職の役割に応じて等級が変動する仕組みになっているのが特徴です。エンジニアが多い企業ということもあり、スペシャリストを目指す従業員に魅力的なキャリアパスを提示しています。
実際の運用は、組織と役割を設計し、役割ごとに従業員をアサインする仕組みです。職務と役割という枠組みが最初に存在しており、そこに従業員を当てはめる流れをイメージすれば理解しやすいでしょう。
パナソニックでは、2015年に賃金体系から年功序列要素を廃止するために人事制度改革に着手し、その過程で役割等級制度を導入しました。重要な役割を果たした社員に高い賃金を支払う仕組みを作ることで、高いモチベーションを維持することを目的としています。
しかし、導入後も年功序列要素を完全に排除できず、一部の働かない経営層に高額の賃金が支払われるという問題が発生しました。これは、同じ役割等級であれば同じ賃金を支払う仕組みに起因するものです。
2020年以降は再び人事改革に着手し、経営層(事業執行層)の人員削減と若手人材の抜擢を行っています。
カゴメでは、人事最高責任者を外部から登用することで人事改革を実行し、グローバルジョブグレードを採用しました。
世界共通の人事制度を構築して国外展開を推進することを目的としており、年功序列型の等級制度から職務等級制度への移行に成功しています。実際の運用では、以下の3要素を評価します。
これらのポイントに基づいて従業員を評価し、健全な競争を促して切磋琢磨しつつスキルアップする環境を提供しているのも特徴です。
企業全体の生産性を高めるには、従業員を適材適所で配置し、一人ひとりが自身のスキルを最大限発揮できる環境を提供することが大切です。そのためには、透明性が高く客観的にスキルを評価できる等級制度の導入が欠かせません。
自社のビジネススタイルにマッチした等級制度を導入したら、適切に運用するためにマネージャー側のマネジメントスキルを高めましょう。以下の資料では、マネージャーのスキルを高める上で欠かせない人事施策について解説しています。
企業全体が成長するのに欠かせない情報をまとめていますので、ぜひこの機会にチェックしてみてください。