2022.6.17
配置転換は、業務内容や配属先、勤務地の変更が伴う人事異動のことです。配置転換によって、組織のモチベーションが向上したり、人材配置を最適化できたりなどのメリットがあります。
しかし、配置転換を正しく実施しないと、社員が不満を持ち、訴訟問題になるケースもあります。企業と社員の間でトラブルが起きないように、企業は配置転換の権利を濫用しないことが大切です。
本記事では、配置転換の実施手順や成果を出すためのポイントについて、詳しく解説します。
配置転換は社員の仕事内容や所属部署、勤務地などを変更し、長期間にわたって業務してもらうことです。
たとえば、以下のようなケースが配置転換に該当します。
配置転換は社員の人材育成や人材配置の最適化のために実施します。
会社が社員を配置転換できる権限をもっており、雇用契約や社内規則の範囲で行使しているのが一般的です。辞令を受けた社員は、原則異動することになります。
配置転換のタイミングは会社によって異なりますが、四半期ごとや決算時などに実施されます。
配置転換と似たような言葉の1つに「人事異動」があります。
人事異動とは、社員のポジションの変更に関する言葉です。幅広い意味で使われており、以下の項目が人事異動に含まれています。
上記のように、配置転換も人事異動の1つとして扱われています。
「転勤」は勤務地を変更する人事異動のことで、配置転換に含まれています。「新宿店から品川店」「大阪事業所から東京事業所」などの異動が転勤の例です。
全国展開している小売店や銀行、事業所の多い会社などでよく行われています。
転籍とは、社員が関連企業や子会社へと移籍する人事異動のことです。現在働いている会社との雇用契約を解消し、移籍後の会社と新しく雇用契約を結ぶのが特徴です。
一方で、「配置転換」は会社内での人事異動のため、雇用契約は解消しません。
自社に籍を置きながら、子会社や関連会社で勤務することを「出向」といいます。「転籍」と違い、労働契約解消による移籍はありません。
「配置転換」は社内での異動を指す言葉であるため、出向とは異動先の定義が異なります。
配置転換は企業の成長や存続のために欠かせません。配置転換によって得られるメリットについて、以下の4つを紹介します。
社員の実績やスキルを見直すことで、適切に人材を配置できます。
もし苦手な業務の多い部署に配属された場合、社員のモチベーションが低くなり、離職する可能性もあるでしょう。
社員に適した職種へと配置転換することで、モチベーションやパフォーマンスの向上が期待できます。
また、社員を別の部署に異動させて適性があるかを判断することにも有効です。適性がわからない入社したばかりの社員を複数回異動することで、少しずつ得意分野を知ることができるでしょう。
異なる経歴の人材が入ることで、その人と部署内のノウハウが融合し、新しいアイデアが生み出されるかもしれません。
組織内のメンバーに変化がないと、部署内での通常業務に対して疑問を持ちにくくなり、新しいことに取り組みづらいでしょう。
配置転換で新しい人材が入ることで、業務の改善点が見つかったり、斬新なアイデアを用いた商品が生まれたりします。
配置転換は組織に刺激が入り、イノベーションが起こる可能性を秘めているのです。
管理職や経営者は、多方面で物事を考えて経営戦略を立てなければなりません。あらゆる角度で考える力を身につけるためにも、経営者になる前に幅広い部門で業務することが望まれます。
配置転換は将来有望な社員に、あらゆる業務経験を積ませることにも有効です。さまざまな部門の業務内容や特徴を学ぶことで、会社の強みや弱みを把握し、今後の経営戦略に活かせます。
新しい場所への適応力も身につき、社員の成長を促進できます。
組織内のメンバーが変化しないと、マンネリ化してパフォーマンスが低下します。組織が変化するためにも、配置転換によって定期的に新しい社員を配属させることが大切です。
配置転換を実施することで、新しい風が吹き、組織が刺激され、モチベーションが向上する効果があります。
企業は配置転換を社員に命じる権限を行使できます。しかし、社員の中には異動を断りたいという方もいるでしょう。
結論として、原則社員は配置転換を拒否できません。ただし、例外もありますので、ここでは配置転換の拒否について詳しく解説します。
会社は配置転換の命令権を持っており、業務上必要があれば、人材を自由に配置できます。
就業規則や雇用契約に記載している会社もあり、社員は配置転換の命令に従わなければなりません。
もし拒否した場合は、最悪の場合解雇される可能性もあります。ただし、突然の配置転換に不満を感じるのであれば、話がきた時に上司と相談しましょう。
配置転換は原則拒否できませんが、一定の条件を満たせば無効にできる可能性があります。
配置転換を拒否できる条件は以下の5つがあります。
上記に該当した場合、配置転換の命令を断れます。ただし「業務上必要ない」「不利益を被っている」については、明確な基準はありません。
もし不当な配置転換を命じられた時は、弁護士に相談することも検討した方がいいでしょう。
配置転換に関する代表的な裁判として、「東亜ペイント事件」と「ネスレ日本事件」があります。
東亜ペイント事件では、営業職に就いていた社員が、家庭の事情によって営業所の転勤辞令を2回断ったことが原因で起こりました。
会社は社員を説得しても賛同がなかったことから、同意なしに転勤命令を出しました。しかし、社員は従わず、同じ営業所で働いたのです。
転勤命令に従わなかったことから、会社は社員を懲戒解雇にします。これに対し、社員は解雇が無効であると会社に提訴しました。
裁判の結果、会社の転勤命令が権利の乱用であり、懲戒解雇は無効であると判断されました。
またネスレ日本でも、配置転換による裁判が行われています。
ネスレ日本では、事業の移転に伴い配置転換を実施しました。社員の中には家族の介護により、配置転換が難しい社員が2人いました。しかし、転勤を望まない社員2人に対しても配置転換の命令をしたのです。
2人は配置転換が無効であると会社に提訴します。
裁判では、業務上必要ではあるが、権利の濫用にあたるとし、配置転換が無効となりました。
配置転換は業務上必要で、社員に不利益が生じないように実施する必要があります。ここでは、配置転換を適切に実施するための手順を紹介します。
最初に、配置転換する社員を決めましょう。
「どの部署でどのような人材が必要か」を考え、誰が適しているかをリストアップします。
適切な人材を見つける際、タレントマネジメントシステムを利用すると便利です。タレントマネジメントシステムは、社内の人材情報を集約したもので、社員の経歴や業績、スキルを簡単に閲覧できます。
特定のスキルを条件にして社員を検索できるなど、必要な人材を簡単に探せるため、工数をかけずに的確に人材を配置できます。
どの人材をどこに配置するかを具体的に決めて、本人に通知する準備をしましょう。
配属転換を命ずる社員本人に辞令を内示します。
内示とは、本人のみに配置転換について通知することです。直属の上司が本人に口頭かメールで伝え、本人の意思を確認します。
内示するタイミングとしては、国内転勤の場合、2週間〜2ヶ月前に通知していることが多いようです。
内示で本人の意思を確認できたら、組織全体に配置転換する社員と異動先を公開する「辞令交付」を実施します。
交付のタイミングは、引継ぎや異動の準備を考慮して、異動日の前に公表するのが一般的です。
交付の通知方法は、定例会での発表や文書による発表など、企業によって異なります。
社員への辞令交付が完了したら、会社は配置転換を実施します。
異動日に社員がすぐ仕事に取り掛かれるよう、人事部が配置転換の準備をします。転勤が必要であれば、転勤先の社宅の手配や引越し費用の補助などのサポートを施しましょう。
配置転換は、組織が活性化し、生産性が向上することで成功したと言えます。成功するには、人事部がさまざまな施策を練ることが重要です。
そこで、以下の4つのポイントを意識して配置転換を実施してみましょう。
なお、会社の成長を考えているのであれば、配置転換以外の人事施策も欠かせません。弊社では、「成長企業が必ずやっている人事施策3選」という資料を無料で配布しています。
以下のリンクからダウンロードできますので、ぜひ参考にしてみてください。
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適切な人事異動を実施するには、現場とのコミュニケーションが欠かせません。
各部署で必要な人材を教えてもらい、充分に情報収集してから人材配置を行いましょう。
配置転換した社員はモチベーションが低下しやすいです。新しい環境に不安を抱いたり、慣れない仕事でストレスがかかったりします。
社員の精神的な負担を少しでも減らすには、人事部によるケアが重要です。異動した社員のストレスをチェックして、新しい部署で働き続けられそうかを定期的に確認しましょう。
配置転換をしても、すぐに効果は現れません。異動した社員が長期間部署内の仕事を経験することで、新しい発見が見つかるためです。
社員が新しい環境に慣れ、部署での業務をこなせるようになるまで時間がかかります。そのため、長期的な目線で成果が出るのを待ちましょう。
社内公募制度とは、異動を希望している社員を募集して配置転換する制度のことです。
社内公募制度を導入することで、自ら望んだキャリアを選べるため、希望した社員のモチベーションは向上し、離職防止にもつながります。
モチベーションが高い社員を配置転換することで、組織がより活性化するでしょう。
配置転換を実施する際に確認すべきことを3つ紹介します。裁判で提訴されるようなトラブルをなくすために、最低限以下のことを確認しましょう。
就業規則や労働契約に「配置転換を命じられる」と明記されているかを確認してください。
どれだけ業務上必要な配置転換だとしても、就業規則に明文化されていなければ、社員は無効だと主張できます。
配置転換の同意があることを書類上で残しましょう。
本当に必要な配置転換かを再度確認することも大切です。
正当な理由で配置転換したと思っていても、裁判で不当とみなされ、無効となることがあります。
「人材を育成するため」「○○のスキルを持っている人が別の部署で求められているため」など、その人材を異動させる目的が明確であるか見直しましょう。
社員のプライベート事情を調査し、社員が著しく不利益を被る配置転換になっていないかを確認しましょう。
業務上必要な配置転換だとしても、社員は拒否することがあります。親の介護や、子供の事情など、社員それぞれに配置転換できない事情があります。
社員の事情を考慮せずに配置転換を強いると、権利濫用となって裁判で無効となる可能性が高いです。
不当な配置転換にならないためにも、事前に社員と話し合いましょう。
配置転換は、人材の成長や組織の活性化のために必要な人事異動です。配置直後はすぐに成果が得られませんが、異動した社員が新しい部署に溶け込むことで少しずつ変化が出てくるでしょう。
ただし、権利濫用と見なされる配置転換をしないように注意が必要です。社員の不利益が大きく、正当な理由のない異動は、社員のモチベーションの低下や離職につながります。
不当な配置転換を実施すると提訴されることもあるので、異動の目的を明確にして、社員から同意を得ることが大切です。
配置転換を円滑に進めるためにも、社員と会社がお互いにプラスになる配置転換を実施しましょう。