2023.9.19
職務分掌(しょくむぶんしょう)とは、「社員の業務内容や責任の範囲を明確化すること」を指します。業務や責任が明確になることで、組織の内部統制ができ、業務効率化やリスクマネジメントを実現します。
職務分掌を社内で決める際、「職務分掌規程」という書類の作成が必要です。しかし、初めて職務分掌を作成する人にとって、「何を書けばいいかわからない」という方もいるでしょう。
そこで本記事では、職務分掌について以下のことを解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
部署や担当者ごとに「どの役職がこの業務を担当するのか」「この業務の責任は誰か」など線引きします。
職務分掌は、内部統制を目的とし、不祥事の防止や業務の適正化のために多くの企業が導入しています。
とくに、多くの事業や部署をもつ大企業で職務分掌を活用していることが多いです。膨大な事業や部署があるため、細分化した業務の責任範囲について文書に整理して誰でも閲覧できるようにしています。
職務分掌と近い言葉で「業務分掌」という用語があります。
業務分掌は「部署ごとに業務内容や責任の範囲を明確化すること」です。経営部門や製造部門、総務部門などに分けて、役割を決めます。
一方で、職務分掌は、「担当者」ごとの業務内容や責任を明確にするという意味です。たとえば製造部門の場合、製造ラインのメンテナンス担当者や完成品の検査担当者などで業務の責任や権限を決めます。
業務分掌は「部署」、職務分掌は「人」単位で業務と責任を区別しているという点で言葉の意味が異なります。
「職務権限」とは、特定の役職者に与えられる権限のことです。一般の社員が権限を超えた仕事をしないように、職務権限を設ける必要があります。
職務分掌は「責任の所在を明確にすること」であり、職務権限とは意味合いが異なります。
セグリゲーションは、「職務の役割と権限を明確にすること」です。職務分掌と意味合いは似ていますが、導入する目的が異なります。
セグリゲーションは、社員のミスや不正を防ぐために導入されています。一方、職務分掌は内部統制が目的です。
社員全員が職務分掌の内容を把握するためには、職務分掌を文書化した「職務分掌規程」が必要です。
職務分掌規程では、主に以下のことを記載します。
また、「職務分掌表」という表を作成して運用している組織もあります。職務分掌表は職種ごとにすべき業務を明確化した表のことです。
たとえば、厚労省の職務分掌表では、以下のように記載されているので見てみましょう。
職務分掌表を作成することで、役職ごとの行動指針がわかるため、スムーズに業務を進められるようになります。
一般的な職務分掌規程に記載されている内容について紹介します。組織全体に共通する項目と各部門に特化した項目があるのでそれぞれ詳しく見てみましょう。
なお、企業によって職務分掌規程に記載されている業務内容の粒度が異なりますので、必要に応じて業務を細分化し規程を作成するのがおすすめです。
どの部署でも必要な職務について記載します。
以下のような項目があるので参考にしてみてください。
メーカーの製造部では、商品の製造に関わる職務として以下のように分掌されます。
上記のように、製造に関係する業務を細かく記載します。
人事部の場合、採用や人事評価に関する事項を記載します。
人事部が労務関係の仕事も担当するのであれば、「福利厚生の運用に関する事項」や「安全衛生管理に関する事項」なども記載します。
経営陣の場合、組織の経営に関する重要な項目を以下のように規定します。
組織全体に影響する業務の権限や責任について記載します。
職務分掌は内部監査とIPO(株式上場)の審査に必要です。
内部監査では、監査法人が「組織が正しく運営されているか」を確認します。確認する項目の中には、「不正が起きないよう対策が実施されているか」という点もあります。
もし職務分掌規程がないと、責任の所在がわからないため、不正が起こりやすい企業と判断されかねません。
健全な経営ができている会社と評価されるためには、内部統制実施の証拠となる職務分掌規程が必要です。
また、IPOの審査でも、職務分掌規程が求められます。株式に上場するためには、社内規程の提出が求められており、職務分掌規程も審査対象の1つです。
職務分掌規程によって、社員のもつ責任や権限が明確であると判断できるため、上場したい会社は職務分掌規程の作成が欠かせません。
規模の小さい会社や起業したばかりの会社の中には、職務分掌規程を作成していないところもあるでしょう。
「作らないと法律に抵触するのか?」と疑問をもつ方もいるかもしれませんが、職務分掌規程がなくても違法ではありません。
職務分掌規程は、あくまで社内規則の1つです。労働基準監督者に提出する必要もないので、作成しなくても問題ありません。
会社規模が大きくなった時や、株式上場をしたい時に作成しましょう。
職務分掌を導入すると、業務内容や権限が明確になるだけでなく、業務上多くのメリットがあります。
以下のメリットがありますので、それぞれ詳しく解説します。
職務分掌によって、一人ひとりの社員が責任感を持って業務をするようになります。
責任が明確になることで、ミスが起きても他人のせいにできません。業務担当者が失敗しないよう気を引き締めることで、より集中して業務を遂行するようになります。結果、社員全員の生産性が向上します。
また、これまで責任が曖昧だった業務も、職務分掌の明文化によって、放置されなくなることもメリットです。
不正した社員の特定ができるため、不正防止策として活用できます。
業務範囲や権限が明確でないと、不正が発覚したときに、特定が難しくなります。
たとえば、機密情報の漏えいが起きたとしても、その情報の権限を所有する人がわからないと犯人の特定が難しくなるでしょう。
職務分掌を実施することで、組織内の業務担当者が持っている権限を把握できます。不正が起きても特定しやすくなるため、社員全員が不正行為をしにくくなるのです。
人材を効率良く育成したいときにも、職務分掌は有効です。
やるべき業務が明確になることで、社員が「何ができればいいか」がわかるため、目標をもって仕事を覚えるようになります。
上司も部下を教える責任が明文化されることで、適切な教育をしようと気を引き締めるようになります。
「間違えて業務を教えた」「この業務は教えなくていいと思った」というミスが、職務分掌によって減らせるでしょう。
職務分掌によって、部下には業務スキル、上司には指導スキルが身につきやすくなるため、人材育成を促進できるのです。
職務分掌がないと、専門外の業務を請け負う場合が出てくるため、業務負担によってストレスを感じやすくなるでしょう。
ストレスが積み重なることで、離職につながる可能性もゼロではありません。
職務分掌を導入すれば、業務範囲が明確になるので、業務外の仕事を押し付けられにくくなります。業務負担が減ることから、社員のストレス軽減に期待できます。
結果として社員のモチベーション向上にもつながるでしょう。
職務分掌があることで、仕事がスムーズにいかないというデメリットもあります。
具体的にどのような弊害ができるのか、以下の2つについて詳しく解説します。
自分から動けなくなる社員が出てくる可能性があり、生産性低下の原因になります。
一般的に、各業務の権限を上司が持っているため、上司の指示により初めて部下は業務を開始できます。
しかし、職務分掌によって、指示がないと仕事を進められないという「指示系統の硬直化」が起きてしまうのです。
指示系統の硬直化を防ぐには、部下が自主的に動ける工夫をすることが大切です。人事評価制度や目標管理をうまく活用し、考えて動ける部下を育成しましょう。
新規事業の立ち上げ時や新商品の開発時に、職務分掌規程に記載されていない業務をするケースも出てくるでしょう。
本来なら誰かが率先してやるべきですが、「自身が担当する仕事でない」という理由で、業務の押し付け合いになる可能性があります。
職務分掌規程によって「決まった業務以外しなくていい」という意識が生まれるため、社員が担当外の業務を断るのです。
結果、イレギュラーな業務が発生しても、誰もやらずに放置されるおそれがあります。
大事な業務が後回しにされないためにも、職務分掌規程でイレギュラー業務を請け負う担当者を決めることが対策となります。
職務分掌規程の書き方として、大きく4つの手順があるので紹介します。
最初に組織図全体を把握してから、各部署の業務内容について調査します。
職務分掌規程を作成するには社員の協力が欠かせません。職務分掌規程の制定理由を伝え、了承をもらってからヒアリングしましょう。
各部署の社員に以下のような質問をして情報を集めます。
ヒアリングした内容から、各部門でどのような職務があるかをまとめましょう。
組織全体の業務を把握できるため、複数の部署で重複している業務内容やムダな業務を発見できます。
必要に応じて各部署の社員と話し合い、細分化して業務内容の範囲を決定します。
細分化した業務から責任や権限が誰にあるのかを明確にします。
責任の範囲については、ただ単に「一般社員の責任」というように書いてはいけません。
もし一般社員が業務でトラブルを起こした時、上司の責任にもなるケースもあるでしょう。「ここまでは一般社員の責任で、これ以上は上司の責任」のように責任範囲を明確にしてください。
職務と責任が明確になったら、権限を決めていきます。複数の部署が同じ権限をもつと業務トラブルになりかねないので、部署間で話し合い、権限を決めましょう。
業務内容と責任、権限が明確になったら、職務分掌規程を作成します。誰もが自分の担当業務が把握できるように記載しましょう。
作成が完了したら、各部署に確認して運用を開始します。運用時に職務分掌に関するトラブルがあれば、規程を見直し、その都度改善しましょう。
職務分掌規程があることで、各部署の業務内容と責任の範囲が明確になります。
社員一人ひとりが「自分は何の業務をすべきか」が把握できるため、業務がスムーズに進み、生産性が向上するでしょう。人材の成長促進やストレス軽減の効果も期待できます。
ただし、指示待ち社員が現れたり、イレギュラーの業務を押し付け合ったりするデメリットもあります。対策として、評価制度や目標管理などを導入し、自主的に社員が働く仕組みを作ることが大切です。
職務分掌規程を作成して、社員が自身の業務に注力できるような環境を作り、組織の生産性を向上させましょう。
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