2023.8.21
企業の成長に欠かせない要素の一つが人的資本です。人的資本とは、従業員の知識、スキル、経験、モチベーションなどの能力や潜在力のことで、これを組織的に活用することで、企業の競争力や価値を高めることができます。 しかし、人的資本は目に見えないものであり、その評価や管理は容易ではありません。そこで、人的資本を経営戦略の中心に据え、その育成や活用を組織全体で推進することを人的資本経営と呼びます。 この記事では、人的資本経営とは何か、なぜ注目されているのか、どのように取り組むべきなのか、国内外の事例など、人的資本経営に関する基礎知識やポイントをお伝えします。
人的資本経営とは、企業が自らの人的資本を戦略的に管理し、価値創造に活用することです。人的資本とは、従業員の知識やスキル、経験やモチベーションなどの無形の資産です。人的資本経営では、人的資本を測定・評価・開示し、従業員の育成や活用を促進します。人的資本経営は、企業の競争力や持続可能性を高めるために必要な経営手法です。
人的資本経営が注目される理由は、主に以下の3つです。
グローバル化やデジタル化により、市場や顧客ニーズが多様化し、変化に対応するためには従業員の能力や柔軟性が求められます。また、働き方改革やダイバーシティ・インクルージョンなどの社会的な課題に対応するためにも、従業員のエンゲージメントや満足度を高める必要があります。
人的資本は企業の最大の費用項目であり、その投資効果や収益性を測定することは重要です。また、人的資本は企業の最大の資産でもあり、その価値を高めることは株主価値やブランドイメージにも影響します。さらに、人的資本は企業のリスク管理にも関わります。従業員の離職率や不正行為などは企業のパフォーマンスや信頼性に悪影響を及ぼします。
投資家やステークホルダーからは、企業の財務情報だけでなく、非財務情報(ESG情報)も開示することが求められています。特に人的資本に関する情報は、企業の将来性や持続可能性を判断する上で重要な指標となります。しかし、人的資本に関する情報は、その定義や測定方法が統一されておらず、開示の質や量にばらつきがあります。そのため、人的資本経営においては、情報開示の基準やフレームワークを整備することが重要です。
人的資本経営に関する取り組みは、国内外で様々な形で進められています。ここでは、代表的なものを紹介します。
IASBは、国際財務報告基準(IFRS)を策定する機関です。IFRSは、世界の多くの国で採用されている会計基準であり、財務情報だけでなく、非財務情報も開示することを推奨しています。IASBは、人的資本に関する情報開示のガイドラインを作成するプロジェクトを進めており、2021年に公表する予定です。
IIRCは、企業の価値創造プロセスを示す統合報告(IR)のフレームワークを提供する機関です。IRは、財務情報だけでなく、戦略、ガバナンス、ビジネスモデル、リスク、機会などの非財務情報も開示することを目指しています。IIRCは、人的資本を含む6つの資本(金融資本、製造資本、知的資本、自然資本、社会・関係資本)について、その入力・出力・変化・影響などを分析することを推奨しています。
日本政府は、人的資本経営に関する政策や施策を展開しています。例えば、経済産業省は、「人的資本経営企業選」を実施しており、人的資本経営に優れた企業を表彰しています。また、厚生労働省は、「働き方改革実践企業百選」を実施しており、働き方改革に取り組む企業を紹介しています。さらに、金融庁は、「コーポレート・ガバナンス・コード」や「スチュワードシップ・コード」を策定しており、企業や投資家に対して人的資本に関する情報開示や対話を促しています。
日本企業の中にも、人的資本経営に積極的に取り組む企業が増えています。例えば、リクルートグループは、「人材力指数」という独自の指標を開発し、従業員の能力やモチベーションを定量的に評価しています。また、日本航空は、「人的資本経営報告書」という独自の報告書を作成し、従業員の育成や活用に関する取り組みや成果を開示しています。さらに、ユニクロは、「人的資本経営宣言」という独自の宣言を発表し、従業員の幸せや成長を最優先にすることを表明しています。
人的資本経営においては、情報開示が重要な役割を果たします。情報開示とは、企業が自らの人的資本に関する情報を外部に公表することです。情報開示の目的は、以下のようなものがあります。
情報開示には、様々な方法があります。例えば、以下のようなものがあります。
人的資本経営に取り組むメリットは、以下のようなものがあります。
人的資本経営では、従業員の能力やモチベーションを高めるために、適切な教育や評価、報酬などを提供します。また、従業員の声や意見を聞き入れることで、コミュニケーションやエンゲージメントを強化します。これにより、従業員のパフォーマンスや満足度が向上し、生産性や創造性が高まります。
人的資本経営では、従業員の価値観や行動規範を明確にし、企業のビジョンやミッションに沿ったサービスや商品を提供します。また、従業員の多様性や個性を尊重することで、顧客や社会のニーズに応えることができます。これにより、顧客や社会との信頼関係が構築され、ロイヤルティやリピート率が向上します。
人的資本経営では、従業員の成果や貢献を定量的に測定し、外部に開示します。また、人的資本経営の方針や目標、取り組みや成果、課題や展望などを報告します。これにより、投資家やステークホルダーからの評価が向上し、資金調達やパートナーシップが容易になります。
人的資本経営のフレームワークとは、人的資本経営を実践するための指針や基準です。人的資本経営のフレームワークは、国際標準化機構(ISO)や国際会計基準審議会(IASB)などの国際的な組織や、日本の経済産業省や日本人的資本経営協会などの国内的な組織によって提供されています。人的資本経営のフレームワークは、以下のような要素を含んでいます。
人的資本とは、従業員の知識やスキル、経験やモチベーションなどの無形の資産です。人的資本は、個人的なものと組織的なものに分けることができます。個人的な人的資本とは、従業員が個々に持つ能力や特性です。組織的な人的資本とは、従業員が集団として持つ関係性や文化です。
人的資本の測定と評価とは、従業員の能力や貢献を定量的に表すことです。人的資本の測定と評価には、入力指標と出力指標があります。入力指標とは、従業員に投入される教育や研修、報酬や福利厚生などの要素です。出力指標とは、従業員から生み出される売上や利益、生産性や創造性、満足度や忠誠度などの要素です。
人的資本の開示と報告とは、従業員に関する情報を外部に公表することです。人的資本の開示と報告には、財務情報と非財務情報があります。財務情報とは、従業員に関する費用や収益、投資効果などの金額を表す情報です。非財務情報とは、従業員に関する方針や目標、取り組みや成果、課題や展望などの内容を表す情報です。
人的資本経営を始めるステップとは、以下のようなものがあります。
人的資本経営のポイントとは、以下のようなものがあります。
人的資本経営では、従業員を単なるコストではなく、価値創造の源泉として捉える必要があります。そのためには、戦略的な視点で人的資本を管理することが必要です。戦略的な視点とは、企業のビジネスモデルや競争優位性に応じて、必要な人材や能力を明確にし、それらを獲得・育成・活用・保持することです。
人的資本経営では、外部への情報開示やコミュニケーションを強化することが必要です。外部への情報開示やコミュニケーションとは、株主や投資家、顧客や取引先、社会やメディアなどに対して、従業員に関する財務情報や非財務情報を公表し、それに対するフィードバックを受け取ることです。外部への情報開示やコミュニケーションを強化することで、企業の信頼性や透明性を高めるとともに、従業員のモチベーションや誇りを高めることができます。
人的資本経営では、内部での連携や協働を促進することが必要です。内部での連携や協働とは、経営層や人事部門、各部署や現場などの間で、人的資本経営に関する情報や意見を共有し、それに基づいて行動することです。内部での連携や協働を促進することで、人的資本経営の方針や目標に対する理解や共感を深めるとともに、従業員の参画や創造性を高めることができます。
人的資本経営の事例を紹介します。以下のような企業が人的資本経営に取り組んでいます。
以上が、人的資本経営の事例です。他にも多くの企業が人的資本経営に取り組んでいます。人的資本経営は、従業員の幸せと企業の成長を両立させるために必要な経営戦略です。ぜひ参考にしてください。
人的資本経営とは、人材を価値創造の源泉として捉え、その能力や貢献を最大化することで、企業の競争力や持続可能性を向上させる経営のあり方です。人的資本経営には、戦略的な視点で人的資本を管理すること、外部への情報開示やコミュニケーションを強化すること、内部での連携や協働を促進することなどが必要です。また、人的資本経営は、SDGsなどの社会的な課題にも寄与することができます。旭化成やソニー、東京海上などの企業が人的資本経営に取り組んでおり、その成果を発揮しています。人的資本経営は、従業員の幸せと企業の成長を両立させるために必要な経営戦略です。