2023.9.11
今回は、働き方改革の一環として導入された時間外労働の上限規制について、わかりやすく解説します。
時間外労働の上限規制とは、労働者の健康や生活を守るために、時間外労働や休日労働の量を法律で制限することです。この制限を守るためには、労使で協定を結ぶ必要があります。この協定を「36協定」と呼びます。
36協定とは何か、どういう場合に必要なのか、どういう場合に対象外なのか、どういう手続きが必要なのか、などについて、順を追って説明していきます。
目次
・時間外労働について
・36(サブロク)協定とは?
・36協定の種類と条件
・36協定は誰と誰が締結する?
・36協定が必要な場合とは
・36協定を締結した後の残業時間は?
・36協定で注意すべき事項
・36協定に違反した場合
・36協定の見直しと違反時の対処法
・36協定を締結するために会社で行うこと
・36協定の届け出の流れ
・36協定を締結しても気を付けるべきこと
・まとめ
まず、時間外労働とは何かを確認しましょう。
時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)や所定労働時間(就業規則で定められた労働時間)を超えて行う労働のことです。時間外労働には、残業や休出が含まれます。
時間外労働には、法律で定められた割増賃金(通常は25%以上)を支払う義務があります。また、時間外労働には上限があります。この上限を超えると法違反になります。
36協定とは、時間外労働や休日労働の上限を決める協定のことです。正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定届」です。
36協定は、厚生労働省が定めた様式に沿って作成し、最寄りの労働基準監督署に届け出る必要があります。届け出る際には、使用者(会社)と労働者代表(組合や選出された代表者)の双方の署名や押印が必要です。
36協定では、以下のことを記載します。
36協定とは、労働基準法第36条に基づく労使協定のことです。この協定は、時間外・休日労働に関する規制を定めるもので、使用者と労働者代表が締結し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。
36協定が制定された背景には、高度経済成長期における長時間労働の問題があります。当時、日本では「いくらでも残業できる」という慣例があり、労働者の健康や生活を脅かす状況でした。そこで、1974年に労働基準法が改正され、時間外・休日労働に対する割増賃金の支払いや上限規制が導入されました。これが36協定の始まりです。
しかし、36協定は当初、適用除外や特例が多く、実効性に欠けるものでした。また、使用者側の圧力や労働者側の無関心などにより、36協定の内容や手続きが適切に行われないケースも多く見られました。そのため、政府は「働き方改革」の一環として、2016年から36協定を大幅に見直す方針を示しました。現在は、時間外・休日労働の上限規制や報告義務などが強化されています。
36協定は、一般条項(原則)と特別条項(例外)があります。一般条項では、時間外・休日労働の上限は月45時間・年360時間となります。特別条項では、臨時的な特別な事情がある場合に限り、月100時間未満・年720時間以内とすることができます。
36協定には、以下の3種類があります。
時間外・休日労働の上限を定める協定。法定労働時間を超える場合に必ず締結する必要がある。
一般協定に特別条項を付け加えたもの。特別条項とは、繁忙期や緊急事態などにおいて、一時的に時間外・休日労働の上限を超えることができるというもの。
時間外・休日労働の上限を設けない協定。特定の業種や職種に限って締結できる。
36協定を締結するためには、以下の条件を満たす必要があります。
36協定は、使用者(会社)と労働者代表(組合や選出された代表者)が締結します。労働者代表は、労働者の過半数の同意を得て選出される必要があります。
36協定は、全労働者に適用される場合と、一部の労働者に適用される場合があります。一部の労働者に適用される場合は、その対象となる労働者の氏名や職種などを明記する必要があります。
36協定が必要な場合は、以下のような場合です。
これらの場合には、36協定を結んで届け出ることで、法律に適合することができます。
36協定を締結した後でも、残業時間は無制限ではありません。残業時間は、36協定で決めた上限内に収める必要があります。また、残業時間は、就業規則や契約書で決めた上限内に収める必要もあります。
残業時間は、毎月や毎年だけでなく、中長期的な視点で管理することが重要です。例えば、2~6か月平均80時間以内という制限もあります。この制限を超えると、過重労働や健康被害のリスクが高まります。
残業時間を管理するためには、以下のことを行うことが有効です。
36協定で注意すべき事項は以下の通りです。
36協定に違反した場合、どのような問題が起こるでしょうか?36協定に違反した場合、以下のような問題が起こります。
これらの問題は、企業にとって大きなリスクとなります。36協定に違反しないように、労使で協力して時間外労働の管理に努めましょう。
36協定は、労働環境や業務内容に応じて、適宜見直すことができます。見直しのタイミングとしては、以下のような場合が考えられます。
労働組合や労働者の過半数代表者が変わった場合、新たな労働者代表と合意する必要があります。
業務量や業務内容が増減したり、テレワークやフレックスタイム制などの導入によって、労働時間や休日が変わった場合、36協定に合わせて見直す必要があります。
時間外・休日労働の上限を増やしたり減らしたりする場合、36協定に記載する必要があります。特別条項付一般協定や特別協定を締結する場合も同様です。
36協定を見直す場合は、再度届出を行う必要があります。届出は、電子申請システムや郵送などで行うことができます。
36協定に違反すると、以下のような罰則や影響があります。
36協定や特別条項に関するルール違反は、労働基準法違反として、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の刑罰が科される可能性があります。
36協定に違反した企業は、労働基準監督署から送検されると、企業名や事案内容が公表される可能性があります。これは、企業の信用やブランドイメージに大きなダメージを与えることになります。
36協定に違反して時間外・休日労働をさせた場合、労働者から残業代や損害賠償などの請求を受ける可能性があります。労働者は、労働基準監督署や労働審判に相談したり、訴訟を起こしたりすることができます。
36協定を締結するために会社で行うことは、以下のようなものがあります。
時間外労働や休日労働の必要性や上限時間、割増賃金などについて、労働者代表と協議し、合意することが必要です。
協議の結果をもとに、36協定の様式に沿って協定書を作成しましょう。2021年4月から新しい様式が導入されています。
協定書が作成出来たら協定書を労働基準監督署に提出しましょう。提出は郵送や持参、オンラインなどの方法があります。
36協定には有効期間があり、多くの場合は1年です。期間が切れる前に再度協議し、必要に応じて内容を変更して更新しましょう。
36協定の届け出の流れは、以下のようになります。
36協定は、原則として1年ごとに更新する必要があります。更新する際には、同じ手続きを行います。また、36協定の内容に変更があった場合や、36協定を廃止した場合も、同じ手続きを行います。
36協定とは、労働基準法で定められた法定労働時間や法定休日にかかわらず、労働者に時間外労働や休日労働をさせることができる協定のことです。36協定を締結することで、企業は柔軟な労働時間管理ができるようになりますが、一方で、労働者の健康や安全を守るために気を付けるべきこともあります。
36協定を締結しても気を付けるべきことは、主に以下の3点です。
36協定では、時間外労働の上限を定めることが義務付けられています。2021年4月からは、罰則付きの上限規制が導入されており、違反すると罰金や懲役の刑事罰が科せられる可能性があります。
36協定の範囲内でも、過重労働による脳・心臓疾患の発症リスクを考慮し、労働者の健康を守ることが求められます。労働契約法では、雇用者に安全配慮義務が課せられており、違反すると損害賠償責任を負うことになります。
36協定を締結する際には、労働者代表との協議や届出などの手続きを正しく行うことが必要です。不備があると、協定が無効になり、時間外労働や休日労働が違法になる可能性があります。
以上のように、36協定を締結しても気を付けるべきことは多くあります。36協定は、企業と労働者の双方にメリットとデメリットがある制度です。企業は、柔軟な労働時間管理を行う一方で、労働者の健康や安全を守るために必要な措置を講じることが重要です。
「36協定」とは、労働基準法で定められた法定労働時間や法定休日にかかわらず、労働者に時間外労働や休日労働をさせることができる協定のことです。企業は、柔軟な労働時間管理ができるようになりますが、労働者は過重な負担や健康被害にさらされる可能性があります。そこで、「36協定」を締結する場合は、以下の3点に注意する必要があります。
以上のように、「36協定」にはメリット・デメリットと注意点があります。労働者も企業も、「36協定」の内容や影響をよく理解して、適切な労働環境を築くことが大切です。