2021.6.10
セミナーの後半では、会場から寄せられた質問に対して、引き続きブレインパッド上川様、Speee大場様、ヤプリ角田様のお三方にご回答いただきました。OKR導入や運用の課題やその解決方法に至るまで、色々な角度のQ&Aをレポートいたします。
>>前編「導入から運用までのつまづきや乗り越え方の事例」はこちら
Resily西川(以下、西川):それではさっそく質問を見ていきたいと思います。1番多かったのが「OKRの設定は末端まで設定すると時間がかかってしまうのですが、設定コストを下げる取り組みはありますか?」というものです。これについてはいかがでしょうか。
ブレインパッド上川様(以下、上川):最初はツリーの末端までやっていましたが、「ここまでは作る、それ以降は委譲する」と線引きを決めました。私の所属部門では、事業OKRとその下の部門のプロダクトOKRまでは必ず設定し、そこから先は一任しています。
Speee大場様(以下、大場):Speeeも「全部をやり切ろうとしない」スタンスをとっていますね。まずは事業OKRとプロダクトOKRまでのスモールスタートにとどめ、各メンバーの分は必要になったタイミングで作ってもらっています。全体を作り切らないことが省力化につながると思いますね。
ヤプリ角田様(以下、角田):うちも一緒ですね。運用1ヶ月で個人OKRを全社で回していくのは不可能と判断したので、本部・部門・チームはマスト、それ以下は任意にしました。とはいえ、マストではないチームでもタスクは週次で振り返ってもらい、上の部門で吸い上げたときには整合性が取れる形にしています。
西川:ちなみに今のOKRは、四半期単位で運用してますか?
角田:全社と本部は年間で、それ以下は四半期で考えて運用しています。
上川:私の所属部門では、半期をベースにしています。ただ、プロダクト開発のOKRだと予定がズレがちなので「もう少し長めのイメージでいいよ」という風に伝えています。
西川:私たちも及川さんとよくお話をするのですが、運用する際に几帳面になってしまいがちなのは、引っかかりやすい点なのかなと思いますね。
大場:Speeeの場合、あえてここの部門や組織は作らないと決めてしまいますね。新規事業でローンチするなど、明確な目標がある場合は作らないです。
角田:うちは逆に新しいプロダクトにもOKRを使います。新規のプロダクトほど目標が定まりにくいので、プロダクトを通じて実現したい世界を達成していくための目線合わせは、全社で初期からしています。ビジネスモデルによっても違うと思いますが、SaaSはアップセル/クロスセルの積み上げが大切なので、大枠の受注/計上目標も併せてOKRに入れていきますね。
西川:それでは次の質問ですが「基本的にOKRと評価(査定)は切り離すべきと言われていますが、どのような運営をしているか教えてもらえますか?」というものです。これについてはいかがでしょうか?
上川:私の所属部門では評価と切り離してコミュニケーションツールとして使っています。ただ私の立場だと事業運営とOKRが同じなので、結果的にOKRと目標がほぼ一緒ということはありますね。当社はBtoBがメインでお客様に左右される部分が大きいので、目標とOKRが紐付かないこともあります。
大場:評価は「会社としてどうありたいか」に強烈に紐づくものなので、自分たちの会社がどうなのかを改めて考えてもらうのが1番良いと思います。
SpeeeのOKRの場合、「Key Results」(主要な成果) が進捗として見えていて、達成度としても扱うことが可能です。でも、定量化されていることの弊害として、目標管理と近い扱いをされやすくなってしまう。そこは丁寧に「違いますよ」ということを人事やみんなには伝えています。
OKRと目標管理(MBO)の違いは何かと言うと、MBOは目標を達成できそうなところに置いてしまうことです。挑戦を生み出さないところがMBOの弊害だと思います。
達成したからどうだという話ではなく、目標を立てる段階でどれだけ高いものを立てることができたか、それによって挑戦が生まれ、今までには無いようなプロセスチェンジがいくつ起こったのか、そういうところで多面的に判断して貢献度を測っていきたいですよね。
みんないきなり上手くできることはないので、 MBOっぽくなってしまったり、高すぎる目標設定してモチベーションが下がってしまったり、そんな失敗はあります。しかし、スポーツと一緒で、やっているうちにだんだんうまくなっていくんです。
角田:うちもOKRと評価を分けてはいますが、参考にはしています。分けている理由は、OKRに委ねている業務上の目標設定ではカバーしきれない、定性的な部分も評価に含まれるからです。また先程のMBOの目標設定ではないですが、達成度合いというのは目標設定の塩梅で劇的に変化してしまうので、評価の指標としては非常に曖昧なものだと考えています。
ですので、OKRを参考にはするけれども、日頃の振る舞いなど含めて主観で評価する形にしています。
西川:OKRとMBO以外の方法で評価をしていますか?
大場:Speeeの場合は、OKRの他にも360°フィードバックもやっています。それに加えて、ジョブサイズや、コンピテンシー(高い業績・成果につながる行動特性)のグレードに合わせながら、評価制度をブラッシュアップさせていくやり方をとっています。
上川:当社は360°評価は取り入れてませんが、「評価者ではないけれど関わっている人」からはコメントをもらえるようにしていて、評価するうえで参考にしています。
西川:マネージャーが主観で評価すると、相手を常に見ていないといけなくて大変だと思うのですが、その点はどのように対応していますか?
上川:当社の場合は、隔週で上長がメンバーと1on1を持つようにしています。それは評価のためというよりはコーチングの方がメインで、その人のコンディションをみるようにしています。
ただ上長が見れていない部分は、ちゃんと周囲にヒアリングをすることを促したり、クライアント様との関係を見たりしますね。
大場:Speeeでもコーチングを目的とした1on1を実施していて、メンバーの状態をマネージャーがつかめるようにしています。頻度はマネージャーに任せており、統一はしていません。
その他にやっていることは、業務において兼務などがあると、評価者が誰なのか分かりにくくなることがあるので、それを明確にしておくことをしています。
また360°フィードバックでは「率直に書くルール」を設けています。注意点としては、抽象的な話ではなく「客観的にあなたの振る舞いがどのようなインパクトをもたらしているのか」を伝えるように、フィードバックをアップデートしています。
そういうことをやるとマネージャーの解像度も上がってくるので、周辺の情報も集めやすいようバックアップをしています。
角田:うちは1on1をやりつつ、上長がしっかり評価するようになっています。その上で、役員、経営者、他の部署とキャリブレーションを実施。1on1などはマネジメントコストが高いので、難しさを感じながらやっていますね。
西川:なるほど。それではここで、会場の方から質問をお受けしたいと思います。
質問者A:OKRとMBOを同時に走らせると、評価を意識してムーンショット(高い目標)が設定しにくいと感じています。今検討しているのが、評価の中のレーティング(報酬決定)を無くしてはどうかということです。ムーンショットを達成した場合のみ表彰するようにして、その他は組織目標、組織業績が反映されるようにしたいと考えています。報酬決定を無くした場合、個人のインセンティブは十分にあるのでしょうか?
大場:Speeeでは、今仰られたような制度は入れていませんが、時代に沿った先進的な考え方で良いと思います。半期ごと、3ヶ月ごとに人事評価を追いかけるコストは高いと思うし、無くせるのであれば無くしたいのが正直なところです。
ただエンジニアの市場価値を例にあげると、最近はスカウト系の転職媒体があるので、自分の市場価値をはっきりと数字で見ることができてしまう。会社の給料がそこから下回るとカンタンに辞めてしまうこともある。そんな中でどの程度のコストをかけて評価と向き合っていくかは自身としても気になっているところです。
一方で、この取り組みが無駄とは思っていません。皆さんが繰り返し仰っているように、コミュニケーションツールとしてのOKRなので、評価を無くすことでコミュニケーションが失われるのは悲しいと思います。評価はその人のキャリアに対して真剣に寄り添うことだし、その評価の過程も会社にとって価値の源泉になっていると思います。
角田:うちもレーティングはやっていません。「何を目標にするか」「何をもって自分の価値を把握するか」など、メンバーには1on1で伝えられれば良いなと思っています。最終的には市場価値との相対性というよりは、個人的な納得感が大事だと思っています。
職場を選ぶ理由には「すごい人と働きたい」「プロダクトが好き」など色々あると思うんですよね。報酬はその一部でしかありません。評価などは日頃のすり合わせがうまくいっていれば、決して大きな問題にはならないと考えています。
西川:続けて質問を見ていきますと、評価と並んで多いのが「運用をどうしているか」という質問です。例えば、「OKRの会議は普段の会議とどう違うのか」といった質問ですが、自社の特徴的な部分に触れてご回答いただけますか。
上川:私はOKRを用いて通常の定例会を改善するようにしています。定例会は「それって意味あるんだっけ」といった立ち返りをせず、業務進捗の共有に終始しがちです。なので定期的にOKRを確認するようにしています。
大場:Speeeで気をつけていたことは、「OKRをやるにあたってこの会議をしてください」みたいな、今やってる業務に加えてOKRをやるアドオンにならないようにということです。仕事が増えただけと思われないよう注意しました。
成果を出すことが本来の目的なので、 OKRをすること自体を目的化しないこと。そこをブラさないだけでも違うのかなと思います。
角田:うちの場合はOKRのセッションと定例会議を切り分けてやっていますね。OKRのセッションを会議と認識しながらやっている人はいないと思います。そのへんに立ってやったり、執務室にある大型のモニターに投影しながらみんなでワイワイ、仰々しいアジェンダは無しでお酒を飲みながらやったりもしますよ。
西川:ありがとうございます。それでは会場の方からの質問をお受けしたいと思います。
質問者B:全社のKPIを伸ばすうえで「これをやろう!」という「北極星」のようなものが見つかったとき、それにフォーカスすればするほど、関わることができない人が増えてしまいます。そこに問題点を感じてるのですが、何かアドバイスをいただけますでしょうか。
上川:私の所属部門ではOKRがまさに北極星のような存在で、本来向かうべき方向からブレないようにするためのものになっています。
取り組んでいるOKRは最低でも四半期ベースだと思うので、一時的なフォーカスが原因でまったく達成できないのであれば、そもそもの目標の立て方が間違っているかもしれません。目標を立てて、それが「違う方向ではない」という粒度であれば問題ないと考えます。
大場:今の質問はOKRの粒度の話かなと思います。例えばアンドロイドのアプリと、インフラは別の話だから、OKRは別々で立ててしまってOKかと思います。
失敗あるあるとして「組織図ごとにOKRを立てないといけない」と思い込んでしまうことではないでしょうか。インフラであれば色々な指標が定量化しやすいので、そういったものを含めて「インフラのチームを良くしていこう」という方向に持っていけることができれば、それが正しいフォーカスの仕方なのかなと解釈しています。
角田:弊社は全社でOKRを設定しているので、全社で達成する目標に関わらない人が居ない、というのはそもそものOが全社を包含していない問いうことだと思います。あとOKRに含まれないとメンバーが寂しく感じてしまう。それはとても怖いことです。それはいま話にあったように、既存の組織構造にとらわれずにOKRを設定すれば良いと思います。弊社の場合は、そもそも組織ベースとプロジェクトベースの目標があり、OKR上のチーム自体の構造を変えて運用していたりします。チームの規模感を変えてしまうこともありだと思います。
ここまで、ブレインパッド上川様、Speee大場様、ヤプリ角田様に、OKRの課題やその解決方法などを色々な角度からお答えいただきました。
使っているのは同じOKRですが、細かい運用方法や生じてくる課題は組織ごとに異なります。ただどの組織においても、「コミュニケーション」を軸にしてOKRが活用されていたことに違いはありませんでした。
質の良いコミュニケーションが増えれば、解決すべき課題が明らかになり、より良い組織に一歩近づきます。OKRを活用して、コミュニケーションをあるべき姿に戻しましょう!
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