2021.5.29
近年のコロナ禍における在宅勤務やテレワークの急速な広がりや定着により、「ジョブ型雇用」という雇用形態が注目されています。そんな中、「ジョブ型雇用は、アフターコロナのスタンダードになる」という意見もあれば、「日本企業のサラリーマンの競争がより激しくなる」など、賛否両論の声が挙がっています。
今回は、そんな近年注目の集まる「ジョブ型雇用」について解説していきます。今までの日本での一般的な雇用形態とは何が違うのか?メリット・デメリットは?など、下記の項目に沿ってご紹介していきますので、ぜひご参考にしていただければと思います。
「ジョブ型雇用」とは、その名の通り職務(ジョブ)を特定し、それに沿ってその職務を全うできる人材を募集する雇用方法です。中途採用では、このジョブ型雇用が比較的一般的になってきています。営業募集やマーケティング募集、事務職募集など、職種を特定して採用する方法がこの「ジョブ型雇用」にあたります。
ジョブ型雇用を行う上で絶対に必要なのが、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」です。ジョブディスクリプションとは、ある特定の職務内容を明確に記したもののことです。
上述したように、ジョブ型雇用は職務を限定した採用方法となりますので、実際に募集をかける際には、具体的な職務内容や目的、求める知識やスキル、経験、資格などを明確に提示する必要があります。通常の日本の求人よりも、さらに具体的な情報が載っているものをイメージしていただければと思います。
このジョブ型雇用は、日本ではかなり真新しいもののように感じられるかもしれませんが、欧米では一般的な雇用方法となっています。先ほども述べたように、日本でも中途採用であればこの雇用方法は一般的です。ですが、欧米諸国の場合は、中途採用に限らず、新卒採用でもこのようなジョブ型雇用が主流となっているのです。
ジョブ型雇用は、特定に職務をしっかりと遂行できる人材を採用するためのものなので、重視されるのは、年齢や職務経歴、学歴、意欲という一般的には重視されやすい項目よりも、あくまでその人がもっている「スキル」となります。人が仕事に合わせるのではなく、仕事に人を合わせていく「仕事基準」の採用だと言うことができるでしょう。
「ジョブ型雇用」の対義語に「メンバーシップ型雇用」というものがあります。今回のメインテーマはジョブ型雇用ではありますが、対となるメンバーシップ型雇用についても知ることで、よりジョブ型雇用への理解が深まります。ここでは、そんな二つの雇用方法の違いについて解説したいと思います。
まず、「メンバーシップ型雇用」とは、日本で広く見られる新卒一括採用型の雇用システムです。この場合、まずは全員総合職として入社しますが、その段階では、具体的に何の仕事をするのかは決まっていません。まったくのゼロの状態から入社し、社内研修を受けて、適性を見ることで配属先が決まります。その後は、異動や転勤などのジョブローテーションを繰り返し、長期的な目線で会社を支える人材を育成していきます。
メンバーシップ型雇用のメリットとしては、「長期的な目線で人材を育成できること」「人材の異動や配置に柔軟性があること」「会社への忠誠心の高い人材を育成できること」が主な要因として挙げられるでしょう。これは全て、基本的には終身雇用を前提としたものであり、「人に仕事をつける働き方」と言えます。メンバーシップ型雇用は、一つのことに特化した専門性を身につけるというよりも、様々な分野に関して広く知識を身につけ、会社全体のことを、より客観的に見られるように育成していきます。
もちろん、ジョブローテーションや、異動や転勤などを通して多くの経験を積んでもらうためには、それなりの長い時間が必要です。長期的な目線で見るというのは、一定のリスクも伴います。例えば、早期退職などがあれば、長期的な目線で育成を試みている分、会社への負担は大きくなるでしょう。だからこそ、そのような事態を避けるために、長期的に働けば働くほど一律で給与が上がっていく昇級システムを設けたり、退職時に多額の退職金が受け取れる「年功序列型賃金体系」をセットにしているのです。
このような体系は、「終身雇用」と呼ばれ、定年までの安定を保証するものであり、高度成長期に完成し、非常に合理的なものだったと考えられています。高度成長期を支えたのは、正に長期的な労働力でした。経済を上げていくためには、企業が一度に大量の人材を確保し、長期的に育成していくことが向いていたのです。メンバーシップ型雇用は、その時代においての大きな推進力だったのです。
一方で、ジョブ型雇用は、冒頭で解説したようにスキルを重視した「仕事基準」の採用方法です。自ら専門スキルを高めていくので、スキルのレベルにより、より厚待遇の仕事を見つけていくことが可能です。この場合、メンバーシップ型のような「終身雇用」ではもちろんなく、自分のスキルを最大限生かせる場所を自ら探し、様々な会社での経験を通して、専門的なスキルを高めていくことになります。
ではなぜ、今この「ジョブ型雇用」が注目されているのでしょうか?
ここでは、その三つの要因をご紹介しながら、その背景について考えてみたいと思います。
まず第一に挙げられるのが、新型コロナウイルスの影響です。緊急事態宣言や、感染防止の観点から、出社に制限をかけたり、在宅でのテレワークが急速に普及しています。このような状況では、実際に社内で従業員の行動などを見る機会が極端に少なくなりますので、より顕著に仕事の成果での判断をせざるを得ないのです。
今までだと、上司との付き合い方や、会社に長くいるということで評価をされるような、非常に曖昧な評価だったものがなくなりつつあり、「成果物」が明確になるので、それによるある意味ではわかりやすい評価が主流となりつつあります。
また、当然ながら新型コロナウイルスにより業績に大規模なダメージを負っている企業も少なくありません。このような状況下では、とにかく会社の生産性を高めたいと考える企業も増えてきています。そうした中で、終身雇用を維持することが不可能となり、より成果物によって評価基準を設けることのできるジョブ型雇用が良いのではないかと考える企業が増えてきているのは自然な流れでしょう。
ここまで読んでいただければわかる通り、従来のメンバーシップ型雇用は、会社や従業員個人の専門性を高めるのにはあまり向いていません。「専門性を高める」ということに関しては、度々議論の対象になります。外国に目を向けてみると、大学での教育などの時点から、かなり専門性を持って学習していることがわかります。一方で、日本の場合は、まずは仕事に付いてから、幅広く業務をこなして自分の特性を見つけていくという流れが未だ一般的です。この状況の中、メンバーシップ型雇用のみを採用している企業で身につけたスキルでは、なかなか現在の国際競争で勝つことはできません。
現在の、日本の国際競争力の低下がたびたび取り沙汰されている状況では、専門性に重きを置くジョブ型雇用は、より注目されて然るべきでしょう。
現在は、AIなどをはじめとするIT産業が急速に進化を遂げています。そのような革新に伴い、ITエンジニアやマーケティングなどの専門職の人材不足の状況が続いています。今までであれば、専門職を必要とする企業もまた専門的な分野を取り扱う一部の企業でしたが、技術革新とともに、業界問わず、多くの企業で専門的なスキルを持つ人材が必要とされています。
現在でもこのような人手不足が深刻化していますが、これは今後はより顕著になっていくと考えられています。このような状況の中で、専門的な知識を持つスペシャリストのニーズが非常に高まっているのです。
最後に、ジョブ型雇用を導入することで企業が得られるであろうメリット、そしてデメリットについてご紹介します。
先ほども述べたように、国際競争の中で生き残っていくためには専門的な知識を持つ人材の確保が必要不可欠です。ジョブ型雇用を導入することで、必然的にそのような人材を確保しやすくなります。また、勤務時間や場所の制約が比較的に柔軟になるので、能力が高くても子育てや介護などに忙しい人材でも能力を発揮しやすい環境を整えることが可能となります。多様な人材を確保することで、会社のダイバーシティに広がりを持たせることができるようになるでしょう。
多様な人材を確保すれば、その分新しい価値観や発想が社内に浸透しやすくなります。結果、イノベーションも生まれやすくなり、新規事業や事業拡大のきっかけをつくることもできるのです。
従業員の業務や責任が明確になるので、業務上の無駄な部分がなくなり、業務の効率化に繋がります。スキルや専門性の高い人材が集まれば、必然的に生産性の向上にもつながります。年齢や勤労年数などで給与が増えていく年功序列制度ではなく、あくまで成果報酬のため、結果的にコストの削減にもつながるのです。
専門的な知識やスキルを持った人材に限定して採用活動を行うため、そのような人材を簡単には確保できない可能性が多分にあります。また、社内でのジョブローテーションなどに柔軟ではなくなるため、急な欠員が出た場合など、代わりの人材を確保するまでに時間を要してしまう可能性もあります。必要になったタイミングでその人材がいるとは限らないということを意識しながら採用活動を進めることが重要と言えるでしょう。
ジョブ型雇用の場合、より良い条件が提示する他の企業があった場合、そちらへ従業員が転職する可能性が高いので、人材が定着しにくくなってしまいます。また、メンバーシップ型雇用のようにチームで活動することも少ないことが多いため、社内でのチームワークが生まれにくい環境になってしまう危険性があります。チーム力などを重視する企業の場合は、ジョブ型雇用が本当に自分たちの会社に合っているのかを導入前にしっかりと検討するようにしましょう。
ジョブ型雇用は、今まで日本で主流だったメンバーシップ型雇用とは違い、仕事に合わせて人材を確保するという採用方法となります。専門性の高い人材を集めることによって、現在のようなグローバル社会においても競争力のある組織を作り上げていくことができるかもしれません。ですが、チームワークが生まれにくくなったり、雇用が不安定になったりなど、今まで重視されてきたものに対してのデメリットがあるのも確かです。
まずは、しっかりと自分の会社がどのような人材を求めているのか、どのような方向性で進んでいくのかなどをしっかりと検討し、会社に合ったもの導入することが重要になってきます。
今回の記事を少しでも参考にしていただき、ジョブ型雇用を一つの選択肢として考えていただければ幸いです。
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