2022.6.6
ティール組織とは、フレデリック・ラルー氏によって提唱された新しい組織構造です。社内に階級や役職による階層構造はなく、組織の目的を理解して自律的に業務を進めていくという特徴があります。
この記事では、ティール組織を理解する上で重要な「5段階の組織進化」「成功に必要な3つの要素」について紹介します。詳しく知りたい方や社内導入を検討している方は最後まで読んで理解を深めましょう。
ティール組織とは、「上司や部下などの階層構造がなく、組織の目的に沿って各メンバーが意思決定して業務を進める組織」のことを指します。従来型の組織構造とは大きく異なる組織です。 具体的に以下のような特徴があります。
一般的な企業の場合、最終的な決定権は部長や社長などの役職者にあります。一方、ティール組織の場合は各メンバーに意思決定権があるため、業務効率を大きく向上させることにもつながるでしょう。
「ティール組織」は提唱者であるフレデリック・ラルー氏の著書「Reinventing Organizations」により、新しい組織構造として注目を集めました。
従来の組織構造とは違い「上下関係」や「マネジメント」「売上目標」がない新しい組織構造です。そのような中でも成果をあげているという「驚き」と「疑問」が注目される理由になったのでしょう。よく比較される他の組織構造のポイントを抑えてから、ティール組織について詳しく紹介します。
ティール組織は「ホラクラシー組織」「ヒエラルキー組織」とよく比較されます。以下の表に違いをまとめていますので、ざっくりと違いを確認しましょう。
組織構造 | ポジション/役割 | 意思決定権 | 情報共有 | |
ティール組織 | 階級の無い組織構造 | 組織の目的に基づく行動 | 分散 | 全情報を共有 |
ホラクラシー組織 | 階級の無い組織構造 | タスク毎に業務担当者を配置 | 分散 | 全情報を共有 |
ヒエラルキー組織 | 経営者を頂点とした階層構造 | 役職と職務内容が明確 | 役職者 | 限定的に共有 |
ホラクラシー組織と比べると、「階層のない組織構造」「意思決定の分散」など共通点が多いです。両者の違いに「事業モデルの存在」が挙げられます。ホラクラシー組織は明確な事業モデルをもちますが、ティール組織に事業モデルはなく、必要に応じて柔軟に対応することが求められます。
ヒエラルキー組織とは、「トップダウン型の階層構造組織」です。昇格するほど権限が大きくなったり、マネジメント業務が発生したりするのが特徴であり、「階級」や「役職」がないティール組織とは反対の組織構造と言えるでしょう。
提唱者であるフレデリック・ラルー氏は、ティール組織までの組織進化について、以下の5段階による発達の変化があるといいます。
現代では多くの企業が成果主義である「オレンジ組織」に変わりつつあり、これまでも時代とともに組織構造は大きく変化してきました。ここではティール組織に発達するまでの過程を詳しく見ていきましょう。
レッド組織は1万年前頃に生まれた初めての組織です。「強いものが偉く、弱いものは強いものに従う」という単純な構造ですが、人類に以下の2つの進化をもたらしました。
個人やチームに比べて大きな仕事をするのには向いていますが、力のあるリーダーが恐怖によって組織を支配するため、再現性が低い組織構造といえます。
アンバー組織は6千年前頃に生まれた「ピラミッド構造」を持つ組織です。ランクごとに役割があり、ルールに従うことが重要視されます。「軍隊」をイメージするとよいでしょう。アンバー組織では以下の進化をもたらしました。
上層部が決めた方針をもとに、役割やルールで組織が動くので、再現性のある組織といえます。しかし、現代のように情報の移り変わりが激しい時代には合わない組織構造です。
オレンジ組織は多くの企業に当てはまる「成果主義」の組織です。目標達成をより効率よく行うための「人員配置」や「マーケティング手法」などが考えられるようになりました。
オレンジ組織では各部門毎に役割を設定し、目標達成度によって報酬が決められます。成果に向けモチベーションを高めながら働けるでしょう。ただし実力主義で役職が上がるため、成果のために働き続けた結果、労働問題につながる可能性があります。
グリーン組織は「平等と多様性」を重視した組織です。オレンジ組織では売上や利益といった成果主義でしたが、グリーン組織では価値観に基づいて目的を決める組織構造になっています。
意思決定権についても、上層部が意思決定をするのではなく、できるだけ下層部に任せるようにしているのが特徴です。価値観を明確化して、組織の方向性を一致させることでメンバーの主体性を引き出しています。
5段階の組織進化の最後に位置するのがティール組織です。ティール組織は上司や部下などの階層構造はなく、各メンバーが組織の目的を理解して行動します。各メンバーが主体性をもって働けるため、より柔軟な変化に強い組織を作れます。以下で詳しくみていきましょう。
ティール組織を成功に導く要素として、以下3つを紹介します。
フレデリック・ラルー氏は、必ずしも3つすべてが必要ではないが、3つは相互に影響を与え合うものだとしています。重要な要素になるのでしっかりおさえましょう。
セルフマネジメントとは、「各メンバーが自由に意思決定できること」を指します。自分の給料からシステム導入などの大きな判断についても決められます。一般的な企業の場合、新しいシステムを導入するには上司や役員から承認をもらう必要があるでしょう。しかし、ティール組織の場合には以下の2つを守ることで導入できます。
目的を明確にして、周りからの賛同を得られれば問題はありません。会社の目的に対して組織全体で進化し続けようとする姿勢こそがティール組織の在り方といえるでしょう。
ホールネスとは、「ありのままの自分を表現して、創造性や情熱的エネルギーをさらけだすこと」を指します。オレンジ組織であれば、合理的な数値での判断が重要であり、「直感的」や「感情的」な判断は排除されるでしょう。
しかし、ティール組織では「仮面をとり、ありのままの自分でいること」こそが本来の力を発揮できる要素だと考えられています。各メンバーに安心してもらえるような環境を作り出すことが重要です。
エボリューショナリーパーパスとは、「組織が自然と向いた方向に足並みを揃え進むこと」を指します。ティール組織には中長期の事業計画や戦略はありません。計画通りに進めようとするあまり、何か問題が生じたときに現実から目をそむけようとするからです。
大事なのは「常に現実に耳を傾け、調整し続けること」です。業務を実施していく中で必要だと感じたことは他のメンバーに共有し、賛同を得られれば組織全体に浸透させていきます。この存在目的があることにより、ティール組織は成り立っているのです。
ティール組織のメリットとして、以下の3つを紹介します。
ティール組織の特性上、上司からの指示待ち状態にはなりません。各メンバーが組織の目的に沿って業務を進められるからです。メンバー自身が常日頃から「考えて行動するクセ」がつき、当事者意識が向上します。
「上司の指示でやっている」「仕事だからしかたなくしている」といった業務へのマイナスの感情は生まれにくくなるでしょう。メンバー自身の行動の結果が、直接的に組織の貢献につながることも認識できるので、モチベーションの向上にもつながります。
ティール組織には、「各メンバーに意思決定がある」という特徴があります。従来型のような上司や役員などへの提案の代わりに、「専門家」や「直接影響を受ける人」にアドバイスをもらうことで業務を進められます。
提案に必要な資料作成の手間も省け、他の重要な案件に時間を使えるようになるでしょう。スピーディーな意思決定を繰り返し行うことにより、組織内の改善スピード向上にもつながるため、情報の移り変わりの激しい現代にも合っていると言えます。
ティール組織では、各メンバーが組織の目的に沿って主体的に業務を進めています。常日頃から意思決定を自分自身で行っているからこそ、緊急時にも各自で現状を把握しすぐに対応できるでしょう。
ティール組織のデメリットとして、以下の3つを紹介します。
ティール組織の重要な要素として「セルフマネジメント」があります。「セルフマネジメント」とは「各メンバーが自由に意思決定できること」を指しますが、これに関して苦手意識をもってしまうとティール組織の中で働くのは厳しいでしょう。
ティール組織自体、各メンバーに意思決定を委ねることで進化し続ける組織です。従来型のマネジメント方式に慣れている場合には、徐々にシフトしてセルフマネジメントができるようにしていきましょう。
ティール組織は階級のない組織構造であり、特定の人がマネジメントをする訳ではありません。各メンバーの業務内容を把握するのは難しいでしょう。
通常であれば、チーム長がチーム内メンバーの業務確認をして、さらに上の役職者がチーム長の業務を把握するといった流れです。役職者がいないことにより、各メンバーの業務や組織全体の業務進捗の確認がしづらくなるでしょう。
ティール組織では、基本的に業務上必要な情報は全メンバーに共有されます。これはメンバー間での情報に差が生まれないようにするためです。しかし、機密情報など一部の情報に関しては、組織内でルールを決めリスク管理する必要があります。
情報のリスク管理以外にも、施策やコストの妥当性についてのリスク管理も重要になります。階層構造の組織であれば、複数人の承認が必要になるため妥当性も担保されるでしょう。ただ、ティール組織においては、アドバイスを求めても承認を得ることはありません。そのためメンバーへの信頼関係が必要になります。
ティール組織の導入事例として、以下の2つを紹介します。
株式会社オズビジョンは購買支援の領域で複数のWebサービスを展開している企業です。オウンドメディアにて、「ティール組織を運営していく中で、一時は社員3分の1が辞めていきました。」と紹介しています。
現在オズビジョンでは「完全自律型勤務制度」や「クエストランチ」などの新しい組織制度を取り入れ、「自己実現欲求の追求を組織の目的」として挑戦を続けています。
Buurtzorgはオランダにある地域看護ケアサービスを提供する企業です。ティール組織を導入する前は、「いかに効率よく看護師にサービスを提供させるか」を重視していました。その結果、看護師と顧客の両方からの信頼を失ってしまいました。
ティール組織を導入し、看護師は顧客のことを1番に考える満足度の高い仕事をできるようになり、次第に顧客の満足度も高い評価を受ける組織になったのです。数十人から始まった地域看護ケアサービスも2013年には、オランダの同事業で働く看護師の3分の2を占めるまでに成長しました。
従来の組織構造からいきなりティール組織に変えるのはリスクが高いです。意思決定から給料体系まで、階層構造をなくす以外にも丸ごと組織を変えようとする意思がないとできません。
しかし、ティール組織を導入して成功している企業があることは事実です。自社にとってティール組織を導入する選択肢があるのかをよく考えることが大事です。いいなと感じた価値観だけを取り入れるのも良いでしょう。
以下の資料では、「組織の成長につながる人事施策」について詳しく解説しているので、ぜひあわせてチェックしてみてください。組織構造を変えずとも自社の状況にマッチした適切な人事施策を施すことで、課題解決につなげられるでしょう。