スタイラー株式会社は「未来の購買体験を提供する」というビジョンのもと、ファッション分野でバリューチェーンの再構築を目指したサービスを提供しています。
オンラインでショップ店員と相談しながら、リアル店舗でアイテムを購入できるアプリ「FACY(フェイシー)」は2019年2月に月間アクティブユーザー数が100万人を突破。業界の内外で高い注目を集めています。
そんなスタイラーでは2017年からOKRの導入をスタートしました。インタビューに応じていただくのは、スタイラー代表取締役の小関様と、HR・広報・PRを担当する渡邉マネージャーです。OKR導入に至った経緯やハードル、導入効果や今後の展望まで、幅広くお話を伺いました。
<聞き手/Resily 代表取締役 堀江>
OKR導入の目的は、コミュニケーションをしやすくすることと、ミッションを明確にすること
ーOKR導入は小関さんのこだわりが強かったと伺っていますが、興味を持ったきっかけや導入の経緯をお教えいただけますか
スタイラー代表取締役小関様(以下、小関):そもそもHR(Human
Resources)の肝ってコミュニケーションのデザインだと思っているのですが、人数が少ないときは自然にコミュニケーションを取れるので特に必要性を感じていませんでした。ただやっぱり、人数が多くなってくるに連れてそれが難しくなってくるので、HRを新設して制度も作ろうと思うようになったんですね。OKRは「コミュニケーションをしやすくする」「それぞれのミッションを明確にする」上で適していると思います。
自身はこれまで海外と日本両方の大企業に勤めたことがあるのですが、働き方が明確に違うんですよね。たとえばアマゾンで働いていたときに感じたのは、USのオフィスは基本的に色々な所で様々な会話が発生していてワイワイしている。つまり何か問題があればその場ですぐ話すんです。一方、日本の場合はどうかというと、何かあればまず資料を作って、会議をセットしてそこでようやくコミュニケーションをとる。オフィスでは何も話さないのでオフィスが静かなんですよ。
今の日本のスタイルは、あまり良い時間の使い方をしていないと感じています。1回のミーティングでしか使わない資料を作って、みたいなのは明らかにムダですよね。ですので、それを減らす方向でやりたいと感じていたのもOKRを選んだ理由です。
海外の人はオープンなコミュニケーションに慣れているので、OKRが受け入れられやすい
ー小関さんは三菱UFJからアマゾンを経て、スタイラー立ち上げに至るわけですが「どんな雰囲気をカルチャーにしたいか」というイメージは持っていましたか
小関:僕らは台湾にもオフィスがあって、従業員の40%は海外の人なんですね。特にエンジニアやデザイナーが多いのですが、海外出身の人はイメージしているコミュニケーションに近いし、それに慣れているんですよね。
例えば会社がやろうとしていることがあるとき、
- 自分の抱えているミッションは何か
- ミッションに対してどこまで達成できているか
- 問題だと感じているものは何か
こういうものが常に共有できている状態が、理想的なコミュニケーションです。
この方がわざわざミーティングで話し合うよりも心地よいと思いますし、オープンなコミュニケーションは海外ではいたって普通なんですよね。OKRが海外でよく使われているのにはそんな背景もあると思います。
日本でOKRをスムーズに導入するには「人対人」ではなく「人対ルール」で進める事が重要
ーOKRを導入する際に感じた課題や、乗り越えてきたことについてお伺いさせてください
スタイラーHR・広報・PR担当
渡邉マネージャー(以下、渡邉):OKRについては私も含めて初めて耳にした人ばかりだったので、説明を受けてもどういうものなのかピンときませんでした。
- これまでやっていたMBOと何が違うのか
- KPIはどういう位置づけになるのか
- わざわざOKRを別軸で設定する意味があるのか
など、OKRの本当のところが理解できなかったんです。
それでも、メンバーに対してはわからないなりに自分の言葉で伝えなければいけないので、そういったところは大変でしたね。OKRは自分自身が「やっていこう」と思わないと理解が進まないので、いくら説明を受けたとしても、そのままチームに浸透させるところまでは難しいと感じています。
あとはコミュニケーションの課題で、どうしても1つ1つを重く捉えて、時間をかけ過ぎてしまうところがありますね。OKRとセットでチェックインミーティングや1on1をやってもらっているのですが、「スタンディングでやってね」と声をかけているにも関わらず、わざわざミーティングの場を設けて30分〜1時間かかっていたりとか。そこをどう塗り替えていけるかを考えていますね。
小関:うちは中途の採用が多いんですが、日本の会社で長年勤めてきているので、働き方のスタイルが出来上がっている場合が多いんですよね。つまり労務スタイルが古いんです。日本のIT業界は最先端なイメージがありますが、実は業界が生まれてからすでに20年以上経っていて、古い部分も多いんです。欧米やアジアと一緒に仕事をしても、あちらの担当は20代なのに、こちらは40代とか(笑)
ですのでOKRのような新しい制度を採用する場合も、正直難しいなと思う部分はありました。OKRを導入時に「人対人」にしてしまうと、うまくいきません。どちらかというと「人対ルール」で進めていくのがいいですね。つまり、OKR導入を「誰々が言って始めた新しいもの」ではなく、「会社でルールとしてすでにみんなでやっているもの」として捉えてもらえると、反発は起きにくいと思います。
人事評価とOKRは直結させず、OKRと向き合う姿勢を評価する方向で見直し中
ーOKRと人事評価は別にしていますか
渡邉:OKRについてはレベル感合わせを最初にしていますし、そこを熱心に取り組んでいる人もいるので、ある程度は評価に入れるようにしています。人事評価はまだ見直し中なのですが、今やろうとしているのがポイント制みたいなものですね。例えば、OKRで決めた運用に沿ってできたらポイントが入るみたいな、OKRとしっかりと向き合う姿勢を評価するイメージのものです。
その他にも、
- 考えるだけでなく、行動をとっているか
- チーム外の人とも協力する姿勢をとっているか
などを見ていますね。
小関:普通に数字を追うなどの責任やコミュニケーションは前提としてあります。「OKRに書いていないことはやらなくていい」みたいに思う人がいるみたいなんですが、そうじゃないですよね。OKRはあくまで、「何に対してチームでフォーカスしているのか」という話。サッカーでキャプテンが「攻めろ」と指示を出したときに、守備を放棄していいかというとそうではありません。
OKRはミッション・バリューを実現する上で、「みんなが向かう方向」を明らかにしてくれた
ーOKRを導入した成果のようなものはありましたか
渡邉:すごく良かったと思ったのは、今までの概念ややり方を超えた、新しい価値を作ろうという動きが生まれたことです。「OKRをどうやって達成するか」を話し合うミーティングを自発的に開いてくれていたところです。
これまではどちらかというと「記事本数を何本作るか」みたいなインプットのKRが多かったんです。でも今回はマネージャーやメンバーが自発的にミーティングを開いて、「どのようなアウトプットを出していくか」に焦点を当てて話し合っていました。
例えば、メディアチームが新しくYouTubeを始めたり、デザイナーと組んでポップアップで持ち帰ってもらうカタログを一緒に作ったり。みんなで話し合っている姿を見て、OKRの本当のところってコレなんだな、1つのコミュニケーションツールになっていくことが大切なんだな、ということに改めて気づきました。
たしかに売上などのKPIは大切な部分ですが、それだけを追っていてはサービスの根幹を見落としてしまいます。「自分たちは世の中にどのようなものを提供しようとしているのか」が見えなくなると、向かう方向が少しずつズレてしまうと思うんですよね。
OKRはミッション・バリューを実現する上で、「みんながそこに向かって何をするか」を明らかにしてくれるものだと思います。
スタイラーのサービス「FACY」は次のフェーズへ。OKRを活用してポップアップストアの成功とコンセプトの展開を実現する
ースタイラーでは、OKRを活用して今後どのような目標を達成させようとしているのでしょうか
小関:我々のアプリケーション「FACY」は、幸いなことにマンスリーのアクティブユーザーは現在100万人を超えており、ユーザーは順調に増えています。登録頂いているショップも増えたことから、サービスとして十分機能する環境が整ったと感じています。ただ、多くのユーザーは我々のサービスをメディアやコミュニケーションとして使っている状態なので、これからは商品流通を増やすフェーズを加速させていきたいです。
加速させるにあたって考えたのは「我々はECではない」ということ。つまり、我々はオフラインで何かものを買う時、「店マエ」や「店ナカ」でのショッピング体験を良くすることにフォーカスしているんです。それを体験してもらうために、今ポップアップでコンセプトストアを運用しています。
コンセプトストアではユーザーの情報に基づいてアイテムをセレクションしており、ユーザーは店頭で気に入った商品をアプリでスキャンして、
- その場で買う
- お気に入りに入れておいて、帰宅後に買う
- ショップにメッセージを送って買う
など、自由なタイミングで購入できます。
さらに我々はそこに対してメッセージやクーポンを配信することでリピートしてもらう、ということをやっていきます。
弊社では今後予定しているポップアップストアの成功をObjectiveにしていて、KRは「ポップアップストア経由でのアプリ装着3,000」です。ポップアップストアの成功は、我々の考えているコンセプトを他店舗へ展開する上でも、とても重要だと考えています。
OKRをうまく浸透させて、理想的なコミュニケーションを実現する
ここまで、OKR導入に至った経緯やハードル、導入効果や今後の展望までをスタイラー代表取締役の小関様、渡邉マネージャーにお伺いしました。
海外ではワークスタイルに合わせて自然と活用されているOKRですが、日本では新しい制度として重く捉えてしまいがちです。OKRはミッション・バリューを実現する上で、あるべきコミュニケーションを生み出すサポートをしてくれます。
まずは経営幹部からOKRに対する理解を深め、メンバーに対しては「会社として取り組んでいくもの」として、自分の言葉で伝えていくのが良いでしょう。
※本記事は2019年5月時点のものです。