2022.7.28
株式会社識学が実施した調査結果によると、社員数が10人以上300人未満の会社に勤めている44.6%の人が、自社の人事評価制度に不満を感じているようです。
人事評価制度は本来社員のモチベーションを向上させるツールですが、社員が制度に不満を持っている場合、やる気の下がるものになってしまいます。
あなたの会社にも人事評価制度に不満を持っている人がいれば、制度の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
本記事では、人事評価制度の導入や運用に失敗しないためのノウハウを紹介します。
人事評価制度がうまく運用できていない原因やその対処法について解説しますので、制度の導入を成功させたい方は読んでみてください。
質の低い人事評価制度を導入すると、会社にマイナスな影響を与えます。以下のようなトラブルが起こらないよう、人事評価制度は慎重に導入しましょう。
人事評価制度がうまく運用されていないと、社員は納得のいく評価を受けられないでしょう。
「難しい業務をした割には評価が低い」「自分にだけ評価が厳しい」など、上司や人事担当者に不満をもつかもしれません。
理不尽な評価によって社員のモチベーションが下がり、退職するおそれがあります。
人事評価制度によって効率的に人材を育成できますが、評価基準の設定が曖昧だと成長の妨げになるおそれがあります。
社員は「高い評価をもらうために何をすればいいか」がわからなくなり、能力やスキルを高めようとしなくなるためです。
評価者にとっても基準がないと部下の育成方針を決められず、間違った方向に育てる可能性があります。
結果、組織に必要な人材を育成できず、企業の成長が鈍化するかもしれません。
人事評価によって社員の能力やスキル、実績を客観的に把握できるため、適材適所の人材配置が可能になります。
しかし適切に評価できていないと、社員の能力とマッチしない部署に人事異動させてしまう可能性があるのです。
人材配置のミスマッチが起きると、社員のモチベーションが下がるだけでなく組織の生産性が低下します。
人事評価制度の導入や運用がうまくいっていない原因として、以下の7つが考えられます。
上記の詳細とそれぞれの対処法について解説しますので、もし該当している項目があれば参考にしてみてください。
これから人事評価制度を導入する方は、運用に失敗しないためにもすべての項目に目を通してみましょう。
人事評価制度を導入する際は「企業理念に沿って行動できる社員を育成する」のような目的の明確化が重要です。
導入目的がないと、経営戦略や現場の意見から離れた人事評価制度になるでしょう。
何のための制度かわからなくなり、導入した意味がなくなるおそれがあります。
自社の課題を洗い出し、人事評価制度の導入や見直しによって課題を解決できるかを検討しましょう。
経営陣や人事部だけで決めるのではなく、現場で業務をしている社員からの意見を聞くことも大切です。
現場から「指導力のある社員を増やしたい」という声があれば、組織の指導力強化を目的にして人事評価制度を見直しましょう。
経営方針と社員の意見を照らし合わせて、納得のいく人事評価制度を導入してみてください。目的の明確化は人事評価制度の導入手順の中でも最初にやることです。
人事評価制度の運用開始までの導入手順を知りたい方はこちらの記事を参考にしてみてください。
運用しはじめても導入目的が社員に伝わっていないと、社員が人事評価を実施しない可能性があります。
とくに評価する側の社員は「業務負担が増えた」と感じ不満をもつかもしれません。
社員が納得しなかった結果、人事評価の対応をないがしろにして評価が形骸化することも考えられます。
人事評価制度を運用する前に、社員全員に向けて説明会を開催しましょう。
説明会では以下のようなことを伝えます。
「人材育成に必要」「社員の業績と待遇の公平化」など、目的を明確に伝えることで、社員の理解を得ましょう。
もし説明会で社員から意見や不満の声があがったら、人事評価制度に反映することも検討してください 。
新しい人事評価制度を導入する場合、トラブルは付き物です。
人事評価制度を検証しないまま組織全体で運用を始めると、予期せぬトラブルが頻繁に発生するでしょう。
社員が多い会社の場合は人事部門がトラブル対応に追われ、大きな負担になるかもしれません。
スモールスタートで運用しましょう。一部の部署に人事評価制度を運用してもらい、運用できるかを検証します。
人事評価制度に課題があれば、その部署の社員と話し合いながら改善します。
一定期間トラブルがなく、導入目的を達成できることがわかれば徐々に規模を拡大しましょう。
評価者によって基準が変わる項目があると、評価エラーが起きやすい傾向にあります。
たとえば「積極性がある」という評価項目は、何をもって積極性があるのか基準がわかりません。
「会議でよく発言しているからA評価」「自ら進んで業務を進めるのは当たり前だからB」と評価者によって基準が異なるでしょう。
評価にバラつきがあると社員が不満をもち、モチベーションが低下してしまいます。
誰が見ても同じ評価ができる評価項目や基準を設定しましょう。
積極性を評価する項目であれば「会議で必ず発言をしている」「自ら手を挙げてプロジェクトに参加している」などと明記します。
スキルを評価項目にする場合は「○○の資格を取得する」のように、客観的根拠のある基準を設定するといいでしょう。
数値を用いてより具体的な基準を作成するのも1つの手段です。
評価基準が明確でも、評価者が適切に評価できないと意味がありません。
たとえば、同じ業績の社員でも評価者との信頼関係の差で評価が異なる可能性があります。評価者が主観を交えてしまい、評価に不公平感が生じてしまうのです。
また、人事評価で適切なフィードバックを受けられないと、社員は何を改善すべきかわからなくなります。
改善点が明確でないとやるべきことが不明瞭になるため、仕事への意欲が下がるでしょう。
研修を実施して、公平に人事評価できる評価者を育てましょう。
研修では具体的に以下のことを説明します。
模擬形式で評価トレーニングを実施することで、より評価者のスキルを高められます。
成果主義は「社員の成果を評価して賃金や役職を決める人事制度のこと」です。勤続年数に関係なく実績で評価されるので、社員全員が公平に評価されます。
ただし、成果を出すために無難な目標を設定して、チャレンジしない社員が増えるおそれがあります。チームでの業務や人材育成が疎かになることもデメリットの1つです。
社員が成果だけに囚われないよう、以下の対策をしましょう。
長期的に利益を生み出せる会社を作るためにも、社員が目の前の成果以外を意識できる人事評価制度にしてください。
人事担当者や評価者は人事評価以外にもさまざまな業務を抱えています。もし人事評価に負担がかかっていた場合、他の業務を遂行する時間が減り生産性が低下するかもしれません。
人事評価の負担が大きいと評価制度の運用を継続できず、多大な工数をかけて導入した制度がムダになります。
人事評価システムや目標管理システムを導入しましょう。人事評価システムと目標管理システムの役割を以下にまとめました。
人事評価システム | ・人材情報の管理・閲覧 ・スキルマップの作成・記入・管理 ・人事評価シートの作成・記入・管理 など |
目標管理システム | ・目標の進捗管理 ・目標管理シートの記入 ・目標管理に関するデータの集計・分析 など |
システムを導入することで業務を自動化し、業務負担を減らせます。
人事評価フレームワークごとに起きる失敗例と対策についても把握しておきましょう。今回紹介するフレームワークは以下の4種類です。
それぞれのフレームワークを導入したい方や運用がうまくいっていない方は、ぜひ読んでみてください。
OKRとは「Objective and Key Results」の略で、組織と個人の目標を紐づけて管理する目標管理手法です。
OKRの活用によって社員間でのコミュニケーションを円滑にします。生産性の向上にも有効です。
OKRの運用には以下のような失敗例があるので、対処法とあわせて見てみましょう。
失敗例 | 失敗の詳細 | 対処法 |
---|---|---|
モチベーションの上がらない目標となっている | ・OKRは社員がわくわくする目標を立てるのが基本 ・簡単に達成できそうな目標は社員のやる気が下がる | ・達成が少し難しい目標を設定する |
OKRを人事評価と連動させている | ・人事評価と連動させてしまうと社員が評価をおそれてチャレンジしなくなる | ・目標の達成度では評価せず、OKRに取り組んだ姿勢を評価する |
目標管理の方法がMBOになっている | ・MBOは目標を100%達成しなければならない制度 ・難易度の高いOKRの目標にMBOを適用すると社員のモチベーションが下がりやすくなる | ・目標管理の目的を見直し、自社に合う目標管理手法がOKRかMBOかを選んで運用する |
上記の失敗を防ぐことで、OKRは組織や社員の成長を促進できるツールになります。人事評価とうまく組み合わせることでより効率的に人材を育成できるでしょう。
OKRの導入ポイントを把握したい方は、弊社の「日本企業の人事評価制度にどうやってOKRを取り入れるか?」という資料を読んでみてはいかがでしょうか?
下記リンクからダウンロードできますので、ぜひ参考にしてみてください。
日本企業の人事評価制度にOKRを取り入れる具体的なノウハウ資料を無料で公開しています。人事担当者向けの、より実践的なOKR情報を掲載しました。ぜひご活用ください。
社員が自身で設定した目標の達成度を評価する目標管理制度のことをMBOといいます。
自身で目標を設定することで達成したい気持ちが高まり、社員の成長スピードを高められるのがメリットです。
MBOの失敗例と対処法も紹介します。
失敗例 | 失敗の詳細 | 対処法 |
---|---|---|
簡単に達成できる目標を設定してしまう | 部下が目標を達成できず評価がさがることにおびえ、成長につながらない目標を設定する | 上司が部下の設定した目標をチェックし、社員のスキルや能力に応じて目標の難易度を調整する |
他の業務を後回しにしてしまう | 目標達成を優先するあまり、目標と関連しない業務をしなくなる | 業務への姿勢や通常業務での成果など、目標達成以外の評価項目を追加する |
MBOをうまく運用するには上司の進捗管理が欠かせません。MBOを適切に実施するための手順を知りたい方は、以下の記事を読むことをおすすめします。
目標管理(MBO)とは?メリットやデメリット、運用の流れを紹介します。
360度評価は上司だけでなく、同僚や後輩などが評価者になって一人の社員を評価する制度です。
上司以外からの評価があることで、部下が納得感のある評価を受けられるのがメリットです。
360度評価についても以下の表のような失敗例があります。対処法とともに確認してみてください。
失敗例 | 失敗の詳細 | 対処法 |
---|---|---|
いい評価をもらうために上司が部下に対して甘くなる | 部下からの評価が下がる可能性があるため、上司が厳しい指導をしなくなる | 部下を指導する役割があることを認識させ、360度評価導入前と指導方針を変えないよう管理職が促す |
率直な意見によって社員が傷つくことがある | 率直な厳しい意見を真に受けてしまい、モチベーションが低下する社員が現れる | 相手が傷つかない文章を書けるよう、事前に評価シートの書き方を指導する |
360度評価は社員全員が公平に評価できるスキルを身につける必要があります。360度評価の導入に成功するためにも事前準備が重要です。
こちらの記事で360度評価の導入手順を把握できますので、ぜひ読んでみましょう。
360度評価とは?メリット・デメリット、導入企業例を紹介します。
コンピテンシー評価は、優秀な人材の業務に取り組む姿勢や思考を評価基準にした評価制度です。その部署に必要な人材を効率的に育成できることがメリットです。
コンピテンシー評価の失敗例と対処法を以下にまとめました。
失敗例 | 失敗の詳細 | 対処法 |
---|---|---|
設定した評価基準が適切でない | モデルになる人材を選ぶのが難しく、人材育成につながる評価基準を設定できない | 設定した評価基準が適切か時間をかけて検証する |
評価基準が意味をなさないものになった | 社会情勢の変化によって求められる人材が変わり、これまでの評価基準が意味のないものになる | 多大なコストがかかりますが、定期的に評価基準の改善をしてその都度検証する必要がある |
上記のように、コンピテンシー評価はモデルの選定や基準の作成を慎重にしなければなりません。
以下の記事でコンピテンシー評価を導入するときの注意点を把握できますので、導入前に確認してみてください。
コンピテンシー評価は公正な評価制度?成功につながるコツを詳しく紹介
人事評価制度を適切に運用できている以下の3社を紹介します。
人事評価制度の導入の参考になるかもしれないので見てみましょう。
メルカリでは会社と個人の目標にずれが生じるのを解消するためにOKRを導入しました。
自社の行動指針を組み込んだOKRを設定し、社員が行動指針に基づいて行動できているかを評価しています。
マネージャーと社員が1on1でOKRについて話す点がメルカリならではの特徴です。
OKRに基づいた社員の個人目標について話し合い、部下がやりがいを感じられる目標設定をマネージャーがサポートしてくれます。
メルカリの導入事例についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。
ディー・エヌ・エー(DeNA)では360度評価をベースにした「360度フィードバック」という評価を運用しています。
360度フィードバックはマネージャーを評価する際に活用され、社員が記名制でフィードバックするのが特徴です。
一般的な360度評価では名前を隠しますが、DeNAでは社内の方針で記名して意見を伝えます。社員はマネージャーにただ意見をいうだけでなく、一緒に改善方法を考えます。
360度フィードバックを導入した結果、マネージャーと社員の関係が深まりました。
楽天グループ株式会社では、パフォーマンス評価とコンピテンシー評価を用いて社員を評価しています。
パフォーマンス評価は、設定した目標に対する成果や業績を評価するMBOと似た評価手法のことです。
コンピテンシー評価は自社の行動指針である「楽天主義」を用いており、以下の11の評価項目をランク付けして評価しています。
2つの評価方法を掛け合わせることで社員の成長を促しています。
人事評価制度は正しく運用することで、モチベーションの向上や人材育成の促進などの効果を期待できます。
社員が納得のいく評価制度を導入できるよう、原因を把握して事前に対処しておきましょう。
また、運用開始後に社員から意見があれば取り入れ、定期的に評価項目や基準に反映させることも大切です。
人事評価制度の運用に失敗しないために、組織全体のことを考えながら慎重に導入をすすめましょう。